Hands:Kumi koda



冷たく凍えそうな My Hands 
蔵馬はひとり、コエンマの側で凍りついたように動けなかった。


−−−三大秘宝事件から三日。


判決を言いに、飛影の独房まで来たコエンマが真っ白なマントを羽織っている。
その隣に、蔵馬…一緒に罪を犯した、相手。

飛影は不機嫌そうにコエンマを見た。
「…用があるなら早く言え。判決は?」
…死刑か。それともなんだ。拷問か。
飛影の黒い瞳がコエンマに問いかける。
コエンマは 静かに飛影を見た。コエンマの瞳はいつも上品で、心底では何を考えているかは
相手に見せない。
つばを吐いた飛影がコエンマをにらむ。すると、隣に居た蔵馬は飛影と視線を合わせた。
無言で、蔵馬は飛影を見た。

「…判決は、執行猶予だ。」
「は…?」
意外すぎる言葉に飛影は驚いた。
執行猶予?何故。 あれほど霊界を騒がせて罪を重ねてきた自分が執行猶予?


コエンマはじっと飛影を見てから蔵馬の手を握った。

つ、と蔵馬は一歩進み出た。
「…俺から話します」
そうか、と言ってコエンマは一歩引いた。

「飛影、聞いてください…」

飛影は蔵馬と目を合わせて、初めて気がついた。…今までの蔵馬じゃない。

盗みを働く前に、飛影は初めて蔵馬に手を出した。その時驚いた様子だった蔵馬だったが
嫌がるそぶりは見せず…ただ理由を尋ねた。
…遊びじゃないのなら受け入れますと。
だから、飛影は頷いて口付けをした。
そこからは…鮮やかに覚えている。
…蔵馬がどう反応したか。
蔵馬がなんと言ったか。どんなに自分を好きだと言ったか。
そのときの事を思い出していたのは、蔵馬も同じだったかもしれない。
だが、蔵馬はふっと一瞬だけ切なそうな表情をして直ぐに瞳の色を変えた。
飛影ははっとした。
…これは。 違う。今まで蔵馬に感じた、時々見せる他人を拒む瞳。…それだ。
「…引き換えに、コエンマと約束しました」
…コエンマの、愛人になります。
……なっ!!

「なんだと?!」
ガン、と独房の柵が折れる音がした。
飛影の妖気を受けて一瞬でそれはぐにゃりと曲がり奇妙な
形になった。
飛影はただ何も言えずに蔵馬を見つめた。

蔵馬は、ふっと首を横に振った。
「…ごめんなさい。」
…でも。
「でも、あなたの無事と引き換えに…約束したんです。」
契約したんです。
飛影は、グっとこぶしを握ってコエンマに殴りかかった。
「ぐうっ!」
衝撃で、コエンマはそこに倒れたが、直ぐに口を拭って笑い出した。
「くっ…ははっ…お前に、何が出来る!」
……!
同時に二人固まった。
…蔵馬は、目を丸くさせたまま。
「お前に、何が出来る!…ワシは霊界の最高責任者だ!」
蔵馬の瞳が揺れた。

…瞳が潤みだす。
「……ひ、えい…」
柵は折れていたが、まるで薄くそして硬く立ちはだかるもののようだった。
…蔵馬は。
何も言わずに、コエンマの手を自ら握った。
コエンマはふっと笑って蔵馬の頬を撫でた。

   冷たく凍えそうなMy  Hands
   本当は引き止めて欲しい そう言いたかった
  

蔵馬は、一瞬思い出した。

 初めてキミと手をつないだ あの日に戻りたいの


あの時…犯行の前日。飛影は蔵馬の部屋へ来て唐突に蔵馬を押し倒した。
蔵馬は戸惑って一瞬抗って… しかし直ぐに思った…飛影の真意が知りたいと。
だけど飛影は不器用にくちづけて来て…それが切なくて嬉しくて…。

約束したっけ…抱かれながら指を絡めて蔵馬から…
「また、抱いてくださいね」


キレそうな飛影を見てコエンマは笑った。
「…蔵馬を守れるのか?」
…お前が?…私に逆らって?
飛影は、蔵馬の服を引き寄せようと伸ばした手を止めた。
コエンマはそのまま無言で足を引いた。


牢獄を出て行ったコエンマの足音が消えていく。
蔵馬はそのまま飛影の独房の前に残った。

「………だから。」
…そういうことだから…
蔵馬はそう言って、淡々と言葉を続けた。

止めようとしたのは、飛影の心だった。…だが。
分かっていた。

…今引き止めて、どうする…
    どうする。どうなる。自分は。…蔵馬の心は。  

Last NIght 終わり告げそうなため息
 ……冷たく凍えそうなMy Hands……
     本当は引き止めて欲しかった… …だけど。

無理だと知った。…もっと愚かになれたら。
そうしたら、…だけど

ゆい さんからのリクエスト 倖田の Hands です。長くお待たせして
申し訳ありません!忘れては居ませんでした。ごめんなさい。
以前に、本で出した DEEP FREEZE と言う本に設定は似ています。
でもちょっとだけ状況が違います。それは
飛影の気持ちです、飛影の複雑な心が切なくなっていたらいいな。
描けてるかな…。