色のない扉



違う世界の人間のようで、始め、どうしたらいいか分からなかった。





薄ピンクの花が重なり合い、この数週間だけ、校門への道が華やかになる。
普段は学生の軽やかな声だけが満ちているが、今日は皆少し緊張気味だ。

新年度のクラス替えで、蔵馬は今までとは違うメンバーのクラスになった。

ほおづえをついて外を眺めている振りをして見たが、知らない人の方が多い
クラスで、自分が神経を張っていることは分かって居た。

「蔵馬、どうした?弁当食いに行こうぜ」
話しかけてきたのは、唯一同じクラスになった和真だった。
となりにいるのが、和真よりと仲良しの、桐島君だ。
どうも、と言って彼は小さく挨拶をする。蔵馬とは、それほど親しくはない。
「う、うん…そうだね。」
蔵馬のぎこちない理由を分かって居て、それでも口に出さないで居てくれる
和真が、好きだった。
いつでも、穏やかな気持ちにさせてくれる。

…そう言う存在の…筈だった。

「こっちこっち。」
教室を出て、和真の背を追って歩いていくと、彼は皆が集まる校庭や食堂とは
別の方に向かっていった。
「和真?」
長い黒髪が窓からの光に反射する。
「面白い場所知ってるんだぜ。ついてこいよ」
ニッと笑って、和真はスピードを速くした。
え、と言ってついて行くと……


「え??ここ?」
蔵馬は目を見開いた。普段は入ることのない場所…鍵が開いていた。
屋上だった。
「昼、ここ凄い風が気持ちいいんだぜ。」
和真が蔵馬を振り向いて言う。目を丸くしている蔵馬を見て、吹き出しそうな気持ちを
堪えた。
こいつ面白いな−。
「入って良いの…?」
「しらねえ。でも入れたし」
そう言われたら、そんな気がしてくる…それが不思議だ。

和真が、「おおい!」と言って手を振った。その声につられて、少し 遠くにいる少年が振り向いた。
…昼休みなのに…たばこ…
蔵馬が一瞬固まる。


「こいつ。浦飯。俺の友達」
「お前、おせえぞ」
もう食った、と言って焼きそばパンのビニールを指す。
「って、こいつ、誰?」
胡座を掻きながら、蔵馬を下から上まで、じっと見つめる。
「あ、あの俺「こいつ、蔵馬、おれの友達。」」
一歩後ずさっている蔵馬を心配した和真が、声を重ねる。


「おう!よろしく!って、お前、超可愛いな!」
ずい、と近寄って、ぎゅっと蔵馬の手を握る。
「えっ…」
「おおすげえ細い手!色白だな…そこらの女より綺麗な手」
無邪気な声に、蔵馬は益々固まる。

…女の子みたい…
「お、おい。浦飯、こいつちょっと人見知りだから…」
「あ、そうか!わりぃな。座って座って」
そう言って少し後ろに行く。


悪い人じゃ、無いんだ…。


そう思った。

「あ、そう言えばお前のクラスと俺のクラス、理科実験一緒だな。
よろしくな、蔵馬ちゃん。」
「え…。」
突然の言葉に、蔵馬が顔を上げると…。
「可愛いから、蔵馬ちゃん、な」
これやるよ、と珈琲の缶を押しつけてきた。

「お前理科実験の日だけ授業に出るな〜」
「だってそれ以外興味ないもん」
あとはここでたばこ吸ってる。と幽助が言う。
そんな人…知らない…蔵馬は思った。授業に出ないでタバコ…。
いや、それよりも。
缶コーヒーを、じっと見つめる。
「蔵馬?あいつ大丈夫だった?」
帰り道、和真はそう聞いてきた。
「コーヒー苦手だろう?これカフェオレじゃなくて結構苦いやつだから」
俺が貰ってやる、と和真が言う。
うん、と言いながら、幽助の言葉が頭から離れない。


女の子みたい。

分かってるよ…。







幽蔵でリクエストを頂いたので、長編で書いてみました。
1話目です。
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