LINKAGE 4



蔵馬の手が伸びて、もう一度、飛影の腕に触れようとする。
けれどそれはそこに触れる前に、押し戻された。
「やめろ。」

自分でも驚くほど淡々とした声が出た。
違う、こんな言い方したいんじゃない、と胸の奥で声がする。

「あ…ごめんなさ…「違う。」」
とっさに出た蔵馬の声を遮る。
「無理するな。」
蔵馬の身体を、枕に戻す。
「ありがとう。」
「…言うな。」
蔵馬の耳元で、ゆっくりと言葉が出る。
包帯をしていても、蔵馬の腕の血を感じる。つん、と鉄に似た
臭いがする。
「そばにいられないとか…言うな。」
「え…」

気付いたら、抱きしめていた。力を込めず…でも、それはとっさの
出来事だった。
「ひ…」
蔵馬の瞳が大きく見開かれる。黒髪が揺れた。

「…悪かった。」
蔵馬の耳元で囁かれた声は、苦しげだった。
「ひえ…。」
長い睫毛が揺れて、蔵馬は固まっていた。

何が起きているのか整理できず、蔵馬の身体から、緊張が抜ける。
彷徨うように揺れた手が、布団の上に落ちる。
「どうし…「言うな…そばにいられないなんて。」」

蔵馬をなくすことを、痛いほど感じた。
引っかかっていたものが、何か初めて分かった。

「悪かった。」
「…!」
蔵馬の瞳が、飛影を見つめた。
飛影が、何を言って居るのか…伝えているのか纏まらなかった。
「離れるな。」
飛影の声が熱を帯びていて、蔵馬は言葉が出なかった。

「待っている…。」
時が止まったように、蔵馬が固まっていた。

「待ってるって…。」
「お前を、待ってる。」
だから、謝るな、と思った。
「飛影…無理、しないで…。」
「無理じゃない!」
怒声のような声が響いた。その声は、蔵馬の胸にも響いた。
蔵馬を、力を込めて抱きしめる。
飛影の腕が熱かった。

…分かっただろう。
…譲れないもの。
『それと、同じだ。』
躯の声が蘇る。
蔵馬にも…自分にもある、なくせない存在。

「好きだ。」
かあ、と、蔵馬の顔が火照る。
身体とは違う熱が、蔵馬を支配する。
「…飛影…。」
切なさなのか、何なのか分からない微笑みを、蔵馬が返した。
「…俺も…本当は…離れたくないよ…。」
離れたく無かったけれど。
「そばで…生きていきたいよ…。」
蔵馬の睫毛が震えていた。

とっさに飛影の前に飛び出したのは…唯一今自分が出来る
事だったから。

「俺も…あなたが…好き…。」

蔵馬の身体をベッドにしっかりと貼り付けると、唇が触れた。
触れるだけの口づけなのに、胸が熱くなった。

眠りに落ちた蔵馬の髪をゆっくりと払ってやる。
「俺は…。」
お前を、選ぶ…。
蔵馬の腕の包帯を見る。
この腕を…血で汚したくはない。

僅かに開いた扉の外で、小さく笑う者が居た。
「やっと分かったか…。」
お節介な女王は、隣の時雨を連れて、そこから姿を消した。

”いつか離れてしまう手でも キズナを信じつづけたい
出逢ったのは必然 同じ空へ くちづけしよう”


水樹奈々さんの LINKAGEを聴いていて浮かんだ話です。
飛影はきっと何かのきっかけがあると色々な
ことに気付くんだと思います。
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