モクジ

● Conceal twilight〜 madly in love〜  ●







「んっ…」
ちいさな声がして、蔵馬はゆっくりと、隣の人を見た。



少し濃い茶色の髪が、柔らかくて、胸に甘いものが走った。


さっきまで、溢れていた余韻に、からだの中心はまた反応しそうで、
頬が赤くなる。
分かっている…抱き合った腕の中にいて…ずっと伝わってきた熱。

皇子なのに、余裕のない表情…、ガッと掴んできた指の震え…。
優しげな眼差しは影を潜め、蔵馬の黒髪を荒く掻き回してきた。

肩に食い込みそうだった指が、自分よりも白い気がした。


蔵馬、と呼ばれる度、自分も、からだの熱が上がっていた。コエンマの
からだが
重なるだけで、ドクンドクンと心臓が跳ねた…。
包むようなコエンマの胸が、少しずつ熱くなり蔵馬の腰に重なった瞬間、
コエンマが
熱い息を吐いた。

「あん、ん…はっ…やめ…て」

やめて、と言いながらも嫌でない…ただ波に流される、そのなかで何度も
腰を振った。
こんなに欲が生まれるなんて…知らなかった。

コエンマと名を呼ぶたび、コエンマの吐息が耳にかかった。
嫌なのは…剥がされること。
曝け出したい、けれど誘われたくない…。


蔵馬に欲を吐き出すと、コエンマは蔵馬を抱き込むようにして眠りに落ちた…。








そのコエンマも、今は波を超えて瞳を閉じている。
…きれ、い
小さく声に出そうで、口を覆った…。
整った輪郭…顎の無駄のない形が、蔵馬の深い碧の瞳に飛び込む…。
鋭い瞳、一瞬一瞬世界を見渡してきた、細い指。
そっと、頬をなぞると、もう一度、ちいさな声がした。

「んっ…」
ふ、と笑いが漏れて、今度は堪えなかった。

今はコエンマは自分だけのもの。

ふ、と笑いをもう一度、今度は声を響かせた。

コエンマの腕から抜け出した蔵馬のからだが、窓から覗く月に照らされた。
頬の半分も映していない、そr


黒髪がふわりと肩を流れた。
と…、

「っ…!」

あ、と言いそうに…なったのは蔵馬だった。


ぐいと、引き込まれたからだ…。熱を残して、舐められた滑りがまだ残る
からだ。
「なにを笑っていた」
コエンマだった。

ぐいと蔵馬を引き込んだコエンマの片手…。何かを握り潰した様な、強さ。
「起きて…」
「お前の息で、気がついた」
笑っていたのはコエンマのほうだった。蔵馬の丸い瞳よりも、少し細い瞳は、
形容しがたい深さを帯びていた。
息を呑んだのは、蔵馬だった。
「あ、あなたが…きれいで」
コエンマを見つめるには、月光は鋭く刺さり過ぎていた。月の光に染まった
コエンマは、昔見た絵画の存在のようで。胸が熱くなるのは…行為の余韻ではない、多分。
「ふ、ふふ」
高い声は、コエンマが出したものだった。
「分かっていない…お前は」
え、と言う蔵馬の声は、音にならなかった。


「ん!んぃ…」
ざらっとした、舌が入り込んできた、唇の中。蔵馬の瞳だけで、コエンマは
再びからだが熱くなった。
入り込んできた舌に、蔵馬の手はどうしようもなかった。藻掻くことも
出来ない。緩く腕に収まっていたはずの蔵馬は、勢いよく仰向けにされていた。
「や、ちょっと…」
「煽るやつが、悪い。こんなに真っ直ぐ見つめて」
顎を伝う唾液を舐めると、蔵馬はコエンマを見ようとしなかった。
強がりを、捻じ伏せたいのは、罪ではないと思う…。
それでも
「あ、ん…」
弱く、しがみつく腕が細い。
この腕を、指をもう汚したくない。

支配できるなら、時間も、支配できたら。

行くなと言う言葉を、叩きつけたかった。


だから夜の引力で、抱きとめる。


「蔵馬」
「呼んで」
もっと呼んでと、薄く瞳を開ける蔵馬の長いまつげ…。
その隅まで、舐め回す。
「もっと、感じろ」
あ、あ、と言う声の甘さを永遠にしたい。

先端を梳くと、弾ける液体が誘惑だった。
ガクンと足を投げ出す蔵馬の髪を撫でると、風の勢いで叩きつけた。
「いっ、…あ…ぁ」
滑る感触、熱くからだをめぐる熱、荒く吐く二人の息が、冬の霊界に響いた。
「くら、ま」
「こ…」
中は熱く激しかった。コエンマを離すまいとする契。


「蔵馬、蔵馬」
意識を飛ばした蔵馬を何度も、揺さぶってみた。
反応しないからだは華奢で…昔追っていた狐とは思えなかった。

「好きだ…」
どんなときでも、伝えたい。




モクジ
Copyright (c) 2018 All rights reserved.