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No Way To Say13 -儚い月--
No Way To Say10
紫のにほえる妹を憎くあらば 人妻ゆえに我恋秘めやも-
きっと、誰もが蔵馬を美しいと思うだろう。何も知らずに。
細い。最後に会った日から数か月…壊れそうな体だった。
高く扇を投げた…その瞬間、袖から見えたものに、声が出そうになった。
「っ…」
僅かに覗いた蔵馬の腕、そこに薄く残った跡。
誰も気付かない。
歌声が、飛影をすり抜けていく。
飛影は、そのままいつも使っている訓練場へ向かった。
気づいたら、もう月が出ていた。
疲れは感じているのに、興奮が冷めない。カツンと、音が響いた。
鴉の部屋の前だった。
いつの間にきてしまったのだろう…。
舌打ちをしたとき、出てきた人に、飛影の心臓が跳ねた。
思わず手を伸ばす。
「おい!」
その人は、肩が触れたことにも気づいていなかった。
「…あ」
飛影の肩に、覚えのある白さが飛び込んできた。
袖がめくれ、赤い跡が浮かび上がる。
「蔵馬」
声は聞こえているはずなのに、蔵馬は飛影を見上げなかった。
音が聞こえそうなほど、強く蔵馬の腕を掴んだ。
「痛い、やめてください」
蔵馬のことなど、聞いてやる気が起きなかった。
「これは、どうした」
「あの、夕べ」
自分を見ない相手に、言いようのないものが、胸をせり上げる。
怒りではない、苛立ち。
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