No Way To Say 15

モクジ

  闇と光の交錯  

夕刻の冷たい風が身を包むのに、指先だけに熱が籠る。
不可解な汗が、握りしめた手を染める。
伸ばしかけた手が、蔵馬に届く前に、下ろされた。
蔵馬の瞳がそれを追う。
自分とは違う、強い腕。

「そこ」
飛影の声が、沈黙を破った。舞った花びらが、黒髪にあった。
伸びた飛影の手に、躊躇いはなかった。

「ありが…「痩せたな」」
頬に触れた指は、優しかった。

「触れて、いいか」
答えを待たず、肩を引いた。

「や、め…」
何も、言わせたくない。そのまま唇を塞いだ。
蔵馬が、瞬きをしたのが見えた。驚いたときの癖だ。
飛影は、知っている。
今は逃げない…。
そんな気がして、蔵馬のからだを樹に靠れさせて、唇を吸った。

もう一度、出会ってしまった。
白い指が、飛影の背中に回っ
た…そのとき。


「美しいあいびきだな」


僅かに、黒い服が見えた。


小さな声が、した。
二人の瞳に、黒い服の男がいた。


「鴉…さま…」
「…鴉」


ほかに、ひとはいなかった。


「…二人、ここで何をしている」
鴉の声が、低く響いた。


「蔵馬、お前は、その男と何をしている?」
「…っ…」
飛影は、蔵馬から一歩、離れた。


「…いたずらで声をかけただけだ」
「ち、違います!」
蔵馬は、引き裂くような声を上げた。

「飛影様が丁度通りかかっただけ」
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「…嘘をつけ」
鴉は、一歩蔵馬に近づいた。
「…っ…!」
ぐい、と鴉が蔵馬の腕を掴む。
「来い、蔵馬!」
乾いた音が響いた。
蔵馬は、突き飛ばされていた。
ドサッと白いからだが土の上に転がった。


「蔵馬!」
「…お前達は、名を呼び合う仲なのか」
釣りあがった鴉の目の奥に、光るもの。

「…お前は、こいつを忘れていないのか!」
蔵馬が、鴉を見上げた。
白い腕に、土がこびりついていた。

「そう言う仲だとは、知っていた」
蔵馬は、口を開いたが…言葉にできなかった。


「…気付かないわけが無いだろう」
鴉は蔵馬を見た。
「来い」

-ふらふらと、蔵馬は立ち上がった。
「やめろ!」
「こいつの意思だ」
蔵馬は、振り返る事は出来なかった。
モクジ
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