No Way To Say 18

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あなたにとって私 きっと――多分


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異邦人

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皇太子妃は、若く美しい娘だった。鴉が結婚した相手は、漸く手に入れた大陸の娘だった。
大陸の娘が、鴉に夢中だとは、聞いたことがある。
娘は鴉との日々を楽しみにしていたと。


けれど、海を隔てたこの国のことを、真実は、姫は知らなかった。


鴉は、別の者を、抱いていた。…毎晩。


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「蔵馬…」
腰を突き上げて、鴉が口に放出する。
「あん…」
氷のような瞳に、蔵馬は喉を動かし、飲み干した。もう
何度目だろう。鴉の出すものを飲む度、鴉が笑う。
どんな酒よりもいい、とつぶやく。


「あんな女より、お前がいい」
うつろな瞳をする蔵馬に、鴉が微笑んだ。


飛影が蔵馬を見かけることは、なくなった。

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「お早いお帰りだな」
それは幾晩か過ぎた日のこと――。


しばらく声を交わさなかった二人は、肩がつく距離で、出会ってしまった。
いやな笑いを浮かべる相手に、飛影は舌打ちで応えた。


「チッ…」

「暇なら女でも買ったらどうだ」


飛影の体中の血が、逆流した気がした。

「貴様、ふざけるな!」
「何のことだ」
「分かっているだろう!」
刀を投げつける音がした。

「結婚までしたお前が何故蔵馬を引き止める!」

――好きです―
結ばれた夜の蔵馬の瞳が、飛影の脳裏の蘇る。

「ふ…ん」
小さな笑いは、余裕を含んでいた。


「悪いが、手放すつもりは無いな」
「それなら!」
狂いそうだった。

「気まぐれで手を出した幼い輩か?律儀だな、お前も」
鴉は笑い出した。腕を組み、飛影を見下ろす。
支配者として生きてきた者の威圧だった。


「鴉!!」
飛影を無視して、鴉は戸を開けた。
「私は忙しい。お姫様がご機嫌斜めでな」
最近機嫌が悪い姫君のことだ。


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