No Way To Say 20

モクジ


――次の瞬間、目の前が揺らいだ。


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初めに飛び込んできたのは、暗い天井だった。
「気が付いたか」
自分を見下ろす主人。記憶を呼び起こす。

階段を下りようとして…そこから、分からない。


「階段から落ちたと聞いてな、心配したぞ」
鴉が言うと、
「まだ動かしてはなりません」
隣で、誰かの声がした。


「足を痛めております。あと一月は」
鴉の目が細められた。膝から下を巻く包帯が、見えた。
蔵馬は足の痛みの理由を、理解した。
「待てと言うのか」
医者と思われる老人が、進み出た。
「少し休ませてください」
宥めるように医者が言う。
薬らしいものが、寝台のそばの台にある。
ぴく、と鴉の眉が動く。
「仕方がないな。早く治療しろ」
カツカツ、と、鴉が出て行く音を、遠く聞いた。

あの時何が…門に繋がる階段を降りようとして…そこで記憶が切れている。鉛のように、足が重い。
鈍い痛みが、現実を教えている。――まさか……誰か…突き落とした…?
そうだ。きっと。


誰が―わからない。全く、気配を感じなかった。


「飛影…」
「鴉様、どうなさるのですか?」
執事は、鴉を見つめた。


「…どうする、とは?」
「蔵馬様ですよ。お暇を与えるとか」
「笑わせるな」

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鴉は執事の言葉を流した。
「皇太子妃殿下の、機嫌を損ねてはいけません」
「あの女のことは適当に機嫌を取っていくさ」
鴉は部屋の扉を開けた。派手な絨毯が鴉を迎える。
――皇太子妃はまだ子供だ。
それよりも、義理の弟の想い人を所有するほうが、面白い。
だから、鴉は蔵馬を追い詰める。


蔵馬の足が治るまで、待った。そうすると、鴉は舌なめずりをした。


暗い夜が、始まった。

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「あ…んぅ」
蔵馬は自分の姿を見たくなくて、顔を垂らしていた。
鏡に映るのは、自分が足を広げて全てを露にしている姿だった。
鏡は、蔵馬のからだを包む者の手まではっきり映していた。

白い肌が、蝋燭の下で浮かび上がる。幻想的な光景にも思えたが、響く声は、
艶を帯びたものだった。

鴉が後ろから抱き込み、身体をまさぐりながら囁く。
「気持ちいいか」
蔵馬の耳を舐め、息を吹きかける。
蔵馬のからだは、焦れたように揺れた。
十分に濡れた舌が、耳の付け根まで
堪能する。
鴉は、後ろから蔵馬の膝の下に足を入れ、その力で蔵馬の足を開いた。


「…あ…ん」
ぐいと、蔵馬に顎を持ち上げる。
「…んっ…」

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湿った唇が、蔵馬の舌に狙いを定めた。
「ん…」
鴉は蔵馬の上着を、一気に這いで床に落とす。
そうすると、絵姿のような肌が鏡に映った。
これを、染め上げる快感を、鴉は感じた。


「見ろ」
蔵馬の、中心を指した。
蔵馬の足の付け根に、冷たい風が吹き込んだ。


「んん…!」
蔵馬の口を方手で塞いで、鴉は長い爪で、蔵馬の胸を弄り始めた。
鋭い爪は、先端を転がし、つんと弾く。
甘い痺れが走った瞬間、

「あ…あぁ!」
長い爪が、突起に食い込んだ。


「良い声だ」
ギリギリと、鋭い音が聞こえそうな刺激が、蔵馬のからだを駆け巡る。
首筋に、生暖かいものを感じ、蔵馬は跳ねた。

鴉の唇だった。
ほんの僅か開かれた瞳に、自分の肌と、一回り大きな鴉のからだが映る。

足を開いた蔵馬の後ろで、鴉のからだが熱く、自分を包んでいる。

征服の証のように。

首筋から下を、一気にひっかく衝撃に、からだが跳ねた。
――いた―い…助けて。


その言葉を飲み込む度、その人の声が、頭の奥から響いてきた。


「あいつはどうやって抱いた」
蔵馬の秘孔に入った指が、ある一点を突くと蔵馬の声が小さく漏れた。

自分と鴉を移す鏡―それは、飛影の姿
に変わっていく。

――やだ…飛影…見ないで…


「はっ―、あっ…」


ぐらぐら腰を揺らしながら、蔵馬の瞳が色を消し始めた。
…見られている…抱かる自分を、あのひとが………


飛影!


「あ…―」
鴉が中心をいじるたび、蔵馬の顎が動く。
口を塞いだ鴉の手を、濡らす。
蔵馬の白い肌に、散る証を刻む甘さが
堪らない。


「お前は本当にかわいいよ」
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指を抜くと、蔵馬の双丘の力が抜けた。
床に着いたそこから、白い液体が伝う。
わかるか、と蔵馬の指を、中心
に触れさせる。
そこはビクンと震え、蔵馬の指を迎え入れた。

襞は素直に、細い指を締め付けた。
「あっ…は…ん」
「良い、か?ん?」
うっとりとした、鴉の声だった。
「敏感になってきたじゃないか」
「あっ…あん!」
とろ、としたものを感じ、蔵馬は力を抜いた。
放出したのは、蔵馬だった。
「わたしのことも、感じるんだ」
「あ…!あぁ!」
甘い声と、さまよう瞳は、艶やかに浮かび上がった。


……飛影……
遠く、すべての声が遠く思えた。
モクジ
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