No Way To Say 23

モクジ
鴉に知らされたのは、翌日のことだった。


「鴉様!」
大きな声で起こされて、鴉は執事を睨んだ。
「どうした」
執事は、遠慮がちに告げた。
「本当でございます」
鴉に、動揺が見えたのは、初めてだった。命は取り留め
たと言うことだった。
「それで?」
「今はまだ眠っております」
「そうか」



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「皆には既に口止めをしております」
大切なことは、恥になる事実は直ぐに摘み取る、それだけだ。
執事は、遠慮がちに言葉を続けた。


「それで、鴉様」
「蔵馬は暫く安静だ、表向きは病気だ。…肺炎とでもしておけ」


そこまで言って、鴉はふと思い出した。


「飛影にも、耳に入らないようにしろ」
クッ、と口の端を上げて、笑いを浮かべる。

「はっ…はは…」
そこまで飛影が好きか。それほど、私がいやか。

ふと、飛影の顔を思い浮かべる。

いつも自分に屈しない血の繋がらない弟。
珍しく、宝飾品を見ていた飛影の瞳。似ている。二人は似ている。

決して自分に屈しない瞳。求め続ける指先。


「生意気な」
蔵馬のことは、噂でなど耳に入れてやらない。
教えてやるのは、自分でなくてはならない。


「ふっ――」
教えてやろうじゃないか。知りたいだろう、お前だって。
自分から奪われた、蔵馬のことを少しでも。


鴉は歩き出した。

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一族は喜び合った。飛影の結婚…漸く、国が纏まる。
表情を変えもしなかった飛影は、わずかに剣の鞘に手を触れた。

それだけだった。


「私からも祝いを言おう」
飛影は、鴉から目を逸らした。
「何が言いたい」
白々しい。

「思ってもいないことを」
もっと、聞きたいことがある。
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「何、面白い話をしてやろう」
鴉は目を細めた。視線が交差する。
「実はこの間、困ったことが起きてな」
ため息が大袈裟で、吐き気を催すほどだった。


「この間、消えようとした」
「なんだと!」
ダンッ――と音がした。飛影が右腕で壁を殴った衝撃で、パラパラかけらが落ちる。
もろく床に崩れる、かけら。

「それは!」―本当なのか!

「本当に困ってしまった」
「貴様!」
ガッと言う音がした。
飛影が初めて…自分を抑えきれず、鴉に殴りかかった音だった。


「ぐっ…」
口の端から流れる血を拭う手は、幾つのひとを泣かせてきたのだろう。


「――っ…」
しかし聞こえてきたのは、鴉の笑い声だった。


「お前の結婚話をしてやったんだ。よほど驚いたんだな、
先に知っておく方がましだろう?」
ははっ――

「―鴉!」
ザッ――!
飛影の剣が、鴉の頤下に光る。

凍る瞳の奥は、殺意だった。瞳の奥に、燃えるもの。


「あいつに、どう言った!」
「あるがままに話をしただけだ。身分も、思い出させてやった」


鴉は、笑い続けた。

「私も嫁を娶っていると言うのに、騒ぎになって…」
鴉は、立ち上がった。服についた埃を払う。

「お前も、自分の立場を理解した方がいいぞ」

モクジ
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