●● No Way To Say 25 --- いまひとたびの ●●
この国の第2皇子――飛影の婚姻の儀式。欲と駆け引きの中で一人、豪族の娘が決まった。
その娘に会うのは これが初めてだ。
「用意整いましてございます」
可愛い姫宮に、女官たちがざわめいた。
「飛影を呼んでおいで」
――と、そのとき。
「こっ!...国王陛下!」
――バンッ! その場は、突然の大声に、一瞬何が起きた
かと固まった。だが、飛び込んできた光景に皆息を呑んだ。
「お、お逃げください!」
「阻止せよ!」
危険を告げる声と、護衛の声が交差する。
儀式の中、兵士たちの肩から血が零れる。
「何事だ!」
王が叫び、皇后も立ち上がった。少女の顔が青くなり、女官たちは動揺した。
派手な音がして、人々の視線が そ
の方へ向いた。
「侵入者です!」
若い娘の声がした。開放された宮中に、覆面の男が侵入してきた。
入り込んできたその頭は、若く見えた。
「財宝を渡せ!」
大きな混乱が、始まった。
言う外の混乱は、蔵馬のいる場所―鴉の部屋にも聞こえてきた。
蔵馬は、窓から騒ぎを見ていた。
「...――」
蔵馬は痛む手を押さえた。
逃げなきゃ。そう思うと同時に、別の声がする。
...どうなっても、いい。もし盗賊が自
分を殺すのなら...そう思う。
いっそ、そのほうが。
その時、外の喧騒が、一気に近づいてきたのがわかった。
侵入者は、嵐のように近づいた。
「うっ―」
手首に走った痛みに出た声に、外の者が気付いたようだった。
荒い足音が近づいた。扉を蹴破る音がして、血の臭いが広がった。
咽そうなくらいの鉄の臭いに蔵馬が慄いた瞬間..
「あ...!」
後ろに入り込んだ男が、蔵馬の腕をねじり上げる。
「うぁっ...」
「動くな!」
ばらばらと何人もの男が入り込む。
引き出しや小箱を散乱させる。
寝台や窓の布を引き裂く音がした。
血の臭いが広がり―首筋に冷たい物を感じて、蔵馬は振り返った。
銀の光、黒の柄。
耳元で聞こえた声に、蔵馬は目を見開いた。
次の瞬間、意識が遠のいた。
Copyright (c) 2022 All rights reserved.