No Way To Say 26

はつ 恋

は つ 恋

====
飛影の指が絡んで、蔵馬を、抱きしめる。
蔵馬は体を預けた。
見渡すと、全ての景色に色がなかった。
それでも飛影に 手を回して、笑いかけた瞬間――
『あ!』風が舞い、飛影の姿が消えた。手を伸ばすと、すべてが消えていた。


世界に色が蘇って、映ったのは覚えのない天井だった。
見えた天井は、宮殿に行く前に居た村の住まいに、似ていた。
と、身体を 起こすと、カタンと音がした。警戒か恐れかわからない緊張。



「......!」
突然現れた人に、蔵馬の瞳が見開かれた。

そこには、いるはずのない...相手...



「飛影...」
それは、追っても届かない存在の、あの人だった。


「...目が覚めたか」
言葉が出なかった。
――飛影


遠隔操作された人形のように、唯一動く、美しい瞳。

青白 い顔が固まる。霞んでいた視界が、急に色を帯びる。


「ほんとうに...」
この世界が現実なのか、わからない。どうやって確かめたらいい。

数秒が、とても長く思えた。


「蔵馬」
「...どうして」
これは、夢だ。きっと、目の前の全てが消え去る。


「くら、ま」
黒髪を撫でれば、手負いの動物のように反応する。
誰かのお気 に入りの、香水の香りがした。― と、そのとき。


「おう!気がついたか!」
突然、明るい声がして、蔵馬はハッとした。

しがみついてくる 蔵馬を、飛影が抱きとめた。

すると声の主は、笑いながら中に入ってきた。

ここは、小さな小屋だった。



「仕事は終わったか」
「おうよ! 」
言って小屋の中に入ってくる。蔵馬の目が向けられた。宮中の人間とはとは違う
軽い身なりに、無造作に散らした前髪。

仕草は、村のいたずらな少年に似ていた。固まった蔵 馬 を 見 ると、少年は
大きな袋をドカッと置いた。

「全く、無茶苦茶な依頼すんな、大変だったんだぞ」
「命令した覚えはない」
少年は、けらけら笑う。

「ひどいの、飛影ちゃん、後で金よこせよ」

「変な呼び方をするな」
飛影が言うと、少年はクックッと笑い出した。


「ははっ、よろしくな。飛影さま」
「その呼び方はよせ」
少年は、蔵馬をチラチラ見た。飛影が機嫌悪そうにする

と、少年は大笑いした。


「こいつが、城で噂の宝か」
面白そうに、少年は飛影の後ろに下がった蔵馬に、視線を移した。
包帯の巻かれた手首を見て、一瞬だけ目を歪める。

蔵馬を見つめると、口笛を吹いた。


「噂どおり凄い美人」
飛影が、少年を睨む。

「にらむなよ、こえぇ」
少年は笑って、今度は、蔵馬の頭をポンと撫でた。


「こんな美人を浚ってきたとはねえ。驚きだな」
「え...?」
「幽助」


「あ、悪かったな、変な言い方して」
少年の声は、二人を面白がっていた。


「宮中からお前を浚ってきたのは...こいつ」
くい、と親指で飛影を示す。

蔵馬は、幽助と飛影を交互に見た。
あのとき、相手の瞳には覚えが合った。

そして、記憶が切れた。

幽助が指差すと、飛影は蔵馬の肩を引き寄せた。

「別嬪さん、こいつがあの騒動を仕組んだんだぜ」
「あ、あの...」
「俺は、遊びで盗賊してんだよ、で、こいつから依頼が来て宮中に押し入ったってわけ。
お宝、お前を盗むの。こいつの、手伝い」


幽助が袋を開けると、櫛や首飾りが出てきた。


-------------
Copyright 2022 All rights reserved.