No Way To Say5

モクジ

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それから、月が僅かに姿を変えた夜。


「いや、誰か!!」
悲鳴に似た声が響いた。ビイッと、薄い布を裂いた音が響く。
黒い髪が、畳の上に散らばる。


「…ん!」
声は…蔵馬だった。


皆が宮中を外した隙を狙って、侵入した賊。一気に男たちが、侵入して来たのだ。


頭らしい男が笑った。
「女みたいだな、すげえ美人」
何人かが、蔵馬の手首を頭の上で括り挙げた。



-「誰か!」
荒い息が聞こえてきて、ぞっとする感覚が、背筋を這い上がった。


「ひ…!」
蔵馬の頬を、熱い汗が流れた。


「腕、使えなくしちゃうぜ?」
冷や汗が流れた。暴れる蔵馬の足を、男達が、圧し掛かって押さえつけた。
「なあ…ここにいて、誰の手も付いていないのか?」
蔵馬が顔を赤くした。
何故こんな時に近くに誰も…!
人の歩く気配も、ない。

「外には誰もいねえぞ」
男が、蔵馬の服を引っ張って肩を露にした。蔵馬の肩に、赤い痣が浮かび上がる。
首筋を掠めていく、舌が気持ち悪い。

「綺麗な体だな?ここの男達とは?」
蔵馬は、顔を、横に倒した。しかしその顎を掴んで、男は、頤を固定した。


「今夜はツイてるなぁ?!」
沸いた声は、周りの笑い声だった。
…誰か!
「うるさい!黙れ!」
若い男が、腰に巻いていた布を抜き取る。
「こっちの方が興奮して良いのか?」
若い男が、蔵馬の口にそれを宛がった。
「ん!んぅ!」
くぐもった声に、男が笑った、しかしその声は数秒で消えた。


「うわ!」

見張りをしていた輩が、金切り声を上げた。
「うるせえ!」
頭が、いらついた声を出した。と、微笑が消えた。


「……おま!」
…飛影!
…蔵馬の目の前に、飛影が居た。


影は、燃える瞳をして立っていた。
「飛影さま!」
皇子に先を取られ、護衛のものが声を上げる。
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「遅いぞ!」
飛影は一気に刀を抜いた。蔵馬の上に圧し掛かっている男
に近付いた。男の歯が、カタカタと震えた。
「今日は不在だと!」
ドサッと、音がした。飛影に突き飛ばされた音だった。。
「!げふ!」
圧し掛かっているのは、飛影。
「貴様!」
低い声が漏れた。男を動けなくするには、飛影の瞳で十分
だった。手下が、慌てて蔵馬の口の布を取った。
「…ふっ…」
空気が入ってきて蔵馬は激しく咽た。
「けふ!」
飛影は震える蔵馬を見て、ガッと壁を叩いた。飛び散ったの
は、壁のかけらだった。
「……ひっ!」
男の悲鳴が聞こえた。飛影が、刀を抜いていた。ギラついて
いるのは、その剣の切っ先だけではない。飛影の瞳が男を放
さない。
「この痛み、道連れにしろ!」
「…ぎゃアァ!」
赤いものが、床を濡らした。
視線の先に居るのは、乱れた服のまま、震えている蔵馬だっ
た。飛影は、無言で蔵馬に近寄る。飛影の一歩にさえ、蔵
馬は動けなかった。長い髪が揺れた。飛影は、しゃがみ込ん
でいる蔵馬に。手を伸ばした。
「動くな…」
視線が、絡んだ。
「…どうして―」
「雪菜が熱を出したという報告を受けた」
そっと、蔵馬の肩に触れた。
「痛むだろう」
飛影の手が、静かに差し出された。
「無理をするな」
「…あ」
飛影の声が、聞こえる。



モクジ
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