No Way To Say9

モクジ

  落ちる葉の音  

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その夜は、暖かな風が吹いていた。広い王宮も、今は静かだった。



その中で、掠れるような声が聞こえる。


「う…あ」
艶めいた声の主は、大きな寝台の上で、長い黒髪を散らしていた。
うつ伏せで、むき出しの白い肩が、震えていた。

この部屋で、光は、小さな明かりだけだ。震えるからだに、男が覆いかぶさっている。
抱き込んでいる男は、その人の胸に
手を回した。


「あっ――」
長い爪を伸ばして、揺れるそのひと
の、胸を弄る。

「お許しくだ…」
「可愛い声は相変わらずだな」
背中に張り付いた後毛を引っ張った。
「い…っ!」
反動で、反射的に顔が上を向いた。きゅ、と乳首を摘ままれて、ねじられる。


「や!」
「感じているじゃないか」
笑う声に、黒髪が震えた。


「――お願いです」
哀願する声は、蔵馬のものだった。後ろの笑いが響いた。

「しつけなおしてやろう」
呼ばれた名前に、小さなからだが震えた。


「待ってくださ…」
「礼儀を教えなおしてやる」
蔵馬は、冷や汗を流した。
「お前の主人は誰だ?」
蔵馬は、小さく口を開く。

「鴉様…」
鴉は笑いながら、蔵馬の胸を後ろから抱き締めた。白いからだは、細く滑らかだ。


「い…」
長い爪が突起に食い込み、悲鳴のような声が上がった。

「あ、ふっ―もう…」
鴉の細く長い指が、まとわりつく。

「気持ち、いいだろ」
蔵馬は、喉をひくつかせた。白い肌には、赤い跡が散っている。
鴉の、愛撫の跡だった。


のけぞった首筋に、鴉が舌を這わせ始める。

「あぁ…」
吸い付く舌に、蔵馬は、小さな声で言う。


「…あなただけです」
鴉は、蔵馬の後ろ髪を離した。

「ふっ…」
蔵馬は顔を突っ伏し、荒い呼吸をする。

「お前がそこまで言うのなら」
「ひっ…」
ざらざらした手が、胸を弄り始める。

「許してやろう」
言った途端に、鴉は執拗に愛撫を再開した。

それは、前の日の宵のことだった。
鴉は、私室に招いた大臣たちの前で、口づけをしろ、と命令をした。
蔵馬が青い顔をして目をそらし、部屋から逃げ出した。

鴉が与えた金の耳飾りが落ち、蔵馬はただ走った。
鴉がそのことを指しているのは明らかだった、蔵馬は小さく震えながら、鴉が
離れるのを待った。


少しの沈黙が流れ、背中から気配が消えた。

「…う…」
蔵馬はからだを起こした。
鴉は、蔵馬を見ていたが、立ち上がると、上着を着込み始めた。


「あ、あの」
「…もういい」
蔵馬を遮って、鴉は寝台から降りた。

「今夜はもう部屋に戻れ」
蔵馬は、鴉を見ることが出来なかった。

「は、はい」
--蔵馬はゆっくりと床に降りた。



「…っ――」
肩の痛みを堪え、衣服を身に着ける。


「し、失礼いたします」
壁に手をついて、鴉の部屋を出て行った。


「…全く」
蔵馬が出ていった瞬間、ため息が漏れた。


「これは、まだ教育が必要だな…」
…忘れさせてやろう。
モクジ
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