濁った夢1

========

あなたにとって私 只の通りすがり
ちょっと振り向いてみただけの異邦人

========


「幽助!!」
扉の向こうから、高い声がする。
ゼエゼエと荒い息をついているのが分かる。
扉の向こうで今、相手が…あいつがどんな表情をしているのか、
見ては駄目だ。
見たら、さっきまで消えていた、優しい感情が湧いてしまう。
そうしたら、もう自分はこいつを手元に置けない。





それは余りにも唐突だった。
手伝って欲しい、と言われて呼び出された幽助の国へ行くと、
いつもとは違う
地下の部屋に通された。どうしたの、と言った瞬間には、
幽助の妖気が襲ってきて、吹き飛ばされていた。




「な、に…。」
着ていたシャツが所々破れて、肩から赤い血が流れた。
蔵馬は丸い瞳を見開いて、しゃがみ込んで幽助を見つめた。
「お前…武術会で学ばなかったの?」
足をくじいた蔵馬を見下ろして、幽助が言う。
「え…?」
「他人の言う事、簡単に信じちゃいけないってさ。」




何を言われているのか分からなかった。
幽助はいつでも信用出来る相手で…、いつでも蔵馬を心配して
くれて…。

「俺が、いつもお前のことどんな気持ちで見ていたか、考えなかったの?」
左手で、右の肩を包むようにして、立ち上がろうとする。
「っ…。」
だが、直ぐにしゃがみ込んだ。
「お前があいつのこと見ている時…俺がどんな風に思ってたと
思う?」

幽助が一歩詰め寄ると、蔵馬の腕が震えた。


いつかだろう。


蔵馬が自分ではないひとを見る度、言葉に出来ない熱さが胸を焼く
ようになった。



「ここから出さない。」
「幽助!?」
背を向けて扉の方へ向かう幽助へ、悲鳴のような声が聞こえた。
次の瞬間、幽助は蔵馬の方を見て…
「出さないから。」

幽助が出ていく瞬間、蔵馬が扉に向かって走り出したのを感じた。
だが…。


バン、と扉は閉まった。
「幽助!!」
幽助、幽助、と何度も扉を叩く音が聞こえる。



傷ついている癖に。

「開けて!」
今までに対峙したことはなかったけれど。幽助の妖気は、蔵馬の
それとは違うもので…そして遥かに大きかった。

「あけ…て…」
頬を、冷たい雫が伝う。

本当は、幽助の所へ来た後で、あの人と約束があった。

魔界の店に、ネックレスを買いに行こうね、と…。







Copyrightc 2017 All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-