濁った夢 11

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幽助の荒い息と…そしてあの男の息がまだ頭に、繰り返し
再生されるようで。

「うっ…」

時雨が案内してくれた部屋の…シャワーの下に座り込んで、
蔵馬は小さく声を漏らした。
嗚咽が、止まらない。


「ひ…え」

優しく撫でて欲しかった。
もう触れられないかもしれない。
嫌われる…もう、見知らぬ人のように、冷たい目を
向けられるかもしれない。


何をどう言えば良いのか分からなかった。

会いたかったけれど、会いたくなかった。

シャワーがザアザアと流れる中、黒髪が、肩の辺りで
濡れ落ちる。

「うっ……」
泣くことは好きじゃない。
妖狐の頃は、弱みを見せれば殺される、そういうことだった。

だから涙は、見せるものではなかった。
今もそうだ。

同じことだ。
だけど止められなかった。

いつの間にか、飛影がいないと…心が離れているとこんなに
寂しく弱くなっている。
自分に気づき、ははっと蔵馬は笑った。

いつまでもここにいるわけには行かないと思う。

だから…出て行こうと思う。

飛影と…会わないとは限らない。

あの冷たい視線の飛影に、今までのような優しさで見つめられるのではないなら
それは辛いだけ。…それに。
女のような服を着せられた自分を見て、飛影はどう思っただろう。

「っ……」


ラベンダーのようなボディーソープを、何度も蔵馬は擦り付けた。

香りがきつく染みこむまで、強く強く。

股の間も、尻の中も…全部、全部、飛影以外の人が触れたことを消したくて。

「んっ…」

まだ中に何か蜜が残っている気がして…吐き気に耐えながら…。

「っうっ…」

けれど…堪えきれず、広いシャワー室の片隅に、何かを吐き出す…。

胃液だけの嘔吐。

ずっと、ずっとこのシャワーを浴びていたい。







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