濁った夢 5

悦楽カメリア

白い素肌に爪を立て震える
嗚呼
痛みなんて 泡沫の夜の夢
逃れられない


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥



その視線に気付いたのは偶然だった。
冷たい瞳、そう思っていた漆黒の衣を纏うあいつに向ける、深い碧の視線。
時折何かを言いたげに数秒見つめては逸らす。
そこから何があったのか、二人の間の言葉は知らない。

闘いが終わる頃に、あいつのほうが、蔵馬に対して、幽助が思ったよりも
数倍の関心を抱いていた。



自分では駄目なのかと、何度も思った。
夜を越えては、蔵馬の黒髪や香りが、離れなくなった。

只一度、見てしまった。魔界の森で二人が唇を交わす瞬間を。
「なんで…」
ぐっと手を握りしめた。ざわざわと、魔界の風がざわついた。
何で…自分の何処がいけない。
「好きだ…」

地面に吸い込まれた涙に、幽助は気付かなかった。

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥





だから、今この手に白い肌を感じる。
「あっ…あ…」
硬いベッドの上で、薄い敷物の上で蔵馬の肌が揺れる。
敷物の上で仰向けになっているのは幽助だった。幽助の腹の上で
蔵馬の身体が揺れる。
下から突き上げる幽助の身体が、蔵馬を追い詰める。がしっと蔵馬の腰を
掴んで、上下に揺さぶる。
がくんがくんと揺らされて、蔵馬の視界がぼんやりと…輪郭を歪ませる。


「もっと声だせよっ!」
ぐい、と自身を突っ込んで、抉るように動くと……
「あっ…ひっ…」
悲鳴のような高い声が聞こえる。違う、と思った。
こんな声ではない。
違う、自分が求めるのはもっと…幽助の腕にいると確信する声。
…いたっ…
蔵馬の碧の瞳が歪んでは彷徨う。それに呼応するように、ぐっと
腰と一緒に掴まれた腕が宙をさまよおうとして動く。
「は…ぁ…」
一瞬、奥を突かれて甘い声が響いた。
「…へっ、感じてるじゃないか。そうそう。その声だよっ!」
「ああっ…!」
ほんの少し、蔵馬の声が高くなり涙と甘い声が混ざり合う。
高く腰を掴んで上げると、思い切り落とす。蔵馬の中心部と、
幽助の膨張したそれがとけあうような気がする。

脈打つそれは、蔵馬の中で熱を帯びて、一気に大きくなる。
それで蔵馬の中を何度も何度も突き上げると、悲鳴に似た声がする。
逃れようとしても、幽助の腕力が、蔵馬に負ける筈などない。
「っ…!」
一瞬、幽助の力が強まった。…腕の力が強まり蔵馬の腕に痣が出来た瞬間…
「―!」
いやっ―――
びゅっと音がして、液体が放たれた。
「うっ…うぅ…」
蔵馬の中心から腹までを濡らし、幽助のものが引き抜かれ…
―――もう…終わって……


藻掻こうとしていた蔵馬の力が抜け、小さな声が漏れた。
「…離し…て…」

もう離して…

「っ!」小さな声を捉えて、幽助の眉がぴくっと反応した。
空気が凍り付いた。
「無理なこと、言うなよ!」
低い声がして、次の瞬間、蔵馬の視界が反転した。
「っ!うっ!」
ドサッと音がして、蔵馬が目を見開いた。



蔵馬が仰向けになっていた。
「ゆ…すけ…?」
頬を流れた涙は乾かず、冷たい部屋の中で光っていた。
「俺が嫌なら、あいつなら良いの…?」
すっと、人差し指で蔵馬の頬をなぞる。思わず震えるほど、その指は冷たかった。


「飛影の方が良い?あいつならどうやるの?」
のしかかって、蔵馬の足をぐいっと開かせる。
「いっ…!やめて!」
「教えて、あいつはどうやるの?」
すっと、蔵馬の顔から色が抜けていく。青ざめていくこいつも、綺麗だと
思う。


ほんの僅かな誇りで、蔵馬は顔を横に逸らした。
「ふうん…言いたくない?それなら…」
良いよ、と言う。涼しい声に、蔵馬は一瞬ぞっとした。
「…!?」
蔵馬の足を大きく開かせると、蔵馬の両手をその中心に持っていく。
白く細い指が、毛を割り入ってそのものに触れた。
「な…に…」
「あいつだと思ってさ…ここでやって見せて。」
「…!?」…蔵馬の瞳が、丸くなり言葉が出なくなった。
「俺だと嫌なんだろう?あいつだと思ってやって見せてよ。」
「……っ…」
余りの言葉に、口がぱくぱくする。



やってみせて…それは…
飛影に抱かれていると思って…。
…そんなこと出来ないともう一度言おうとして…
しかし幽助の言葉が染みこんでいく。


ここ数ヶ月会えなかった飛影と、魔界の商店に行こうと約束した
ことを思い出す。
時折会う度に抱きしめてくれる腕の温もりが、飛影、と言う 言葉で 蘇る。
暖めてくれるような空気と、胸を突く低い声と、夜にだけ囁いてくれる
言葉を、幾つも思い出す。




「ひ…えい…」
嫌だ。幽助に見られて、飛影に抱かれているところを思ってなんて…。
「い…や…」
無理だよ…その記憶は自分だけの…


幽助を見まいとして顔を横に倒し、そう言った瞬間、涙が床に
染みこんだ。


だが…




「ふ…ん。でもさ…ほら。」
出来るんじゃねえの?
意地悪い声が降ってきた。幽助の指が、蔵馬の指を器用に、奥まで導く。
びくっと 震えて、蔵馬の指が2本、飲み込まれていく。



「ほら。飛影がお前のこと抱いていると思って。」
幽助の声が呪文のようだった。
「飛影の…。」

幽助に抱かれても、飛影が好きだよ…。俺を忘れないで…。
祈るように、蔵馬は思った。
飛影の声が、頭に蘇る。
抱きしめるときに、少しずつ温かくなっていく腕の感触が、そこにあるようだ。


「あっ…んっ…」
「そうそう。飛影がお前の中に入ると思って…」
自分の指先が、細い指先は蔵馬の襞を突き…知っている、敏感な一点に触れていく。
自分が快感を得るところは…知っている、飛影に何度も濡らされた場所。 …くすくす、と言う幽助の笑いは、蔵馬の耳には今入らなかった。


ぐっと、自分の指を飲み込んで、蔵馬の奥は震えた。

「飛影だってかき混ぜてくれるだろう?」
「飛影―が―――」
自分の細い指の筈なのに、飛影の太く熱のある指に思えてくる。
少し急ぎ気味で中に入る飛影の指が―――。
「あっん…そこ…」
蔵馬の唇が自ら動き、その場面を描く。指が奥へ行くたび太ももがびくびくしなる。


「くす…」
幽助は笑うと、自分の唾を手のひらに出し、蔵馬の中心に塗りつける。
幽助のものの愛液とは違う、唾の臭いが香った。幽助の指が蔵馬のものをなぞると、強請るようにそそっていく。
蔵馬は気付かない。
「んあっ……」
自分の襞の中に、指を招き入れ、少しずつ、自分で足を限界まで開き始めた。
飛影が舐めてくれているように快感が広がる…吐息が蔵馬の肉壁を撫でるようで。
「あっ…んっ……」
吐息が押さえられない。飛影が抱いてくれている。今だけは、飛影を独占できる。
「もっと…奥まで…」
自ら蔵馬は足を広げていた。奥から指を抜き…自分のものを突いた。
「いいぞ、蔵馬」
蔵馬のものの先端を舐める、幽助の唾さえも、実際の飛影の温もりに思えてくる。
「ああっ!」
びくんと蔵馬の喉が鳴った。恥部が全て幽助に見せていた。

ごくんと、幽助の喉が鳴った。
幽助は、悪戯のような目で、蔵馬のものから指を離した。
悪戯な目をして、幽助の指が蔵馬の尻をなぞると…
「あっ!んうぁ…」
そんなに甘くしないで…と蔵馬は思った。
飛影の指がやけに甘く自分の身体を舐め回すときのようで、切ない。
「もっと…」
蔵馬の指はベタベタになっていた。
そうして…
首を振りながら蔵馬は泣いた。
「なに…してるの…毎日…」



くすくす見て居た幽助が、耳を立てた。
「あなたが放って置くから…あなたを思い出してるのに…」
「…!」
今度は、幽助が目を見開く番だった。


軽い気持ちで、自分でやれと言っただけだった。

悪戯で…。
でもまさか経験があったなんて。
飛影を描いて…こんな切ない声で。

面白い、と思った。


「ほら。」
蔵馬に覆い被さって、口を重ねた、柔らかく舌が吸い付いてくる…。
「あんっ…んぁ…!」
甘い涙が流れた。
仰向けのまま足を開いてがくがく尻を動かし…
「あんん!」
切なげな声を出して…蔵馬が果てた。


「上手くできました。良いもの、見せて貰ったぜ。」
幽助が囁くと…
「!」
はっとして、蔵馬が目を見開いた。


「あっ…」
べたついた手のひらを見つめて、幽助の視線を感じた。
さっきまで聞こえていた幽助の声が蘇る。
「あ…あ―――」
手のひらを見つめ、蔵馬は震えだした。
「っ!」
弱々しく、蔵馬は幽助を突き飛ばした。
「これ…」
「お前が出したやつ。あいつのこと呼んで。」
可愛かったぜ、と囁くと、蔵馬はぼろぼろ涙を流した。

足を閉じて、自分の身体を抱きしめる。
「かわいこぶってもさ。―――」


「飛影のこと考えて、、淫乱なこともするんだな。」
ははは、と幽助が笑う声がする。
遠く、幽助の声がした。

…飛影の事思って、淫乱なことも…
…いんらんなこと…
指の汚れ
「あ…」

そのとき―
「あ―――」
ふわっと、蔵馬の身体が前のめりに倒れた。
「おっと―」
そのからだを、鍛えられた腕が受け止める。自分のからだと
違い、こいつはなんて細いんだと思った。
「あ〜あ。ベタベタ。」
あとで拭いてやるか、と口笛を吹いた。


・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥




―――
「飛影。飛影はどこだ。」
―――移動要塞百足。―――時雨の声が響いた。
「飛影は今パトロールでございます。」
そばにいた者が、時雨に囁く。
「そうか…では帰ってからでいい。」
「はっ。」
この間蔵馬が来なかったと言っていた日から、飛影は帰ってからも
部屋に籠もりきりだ。
一体どうしたのだろう。


そのことも聞きたかったのだが…
「躯様もお忙しく、大変だ…」
2週間前から出張に行っている躯が、あと数週間戻れなくなったと
連絡が入った。
「飛影には後で伝えればいいか。」
それよりも、蔵馬とのことの方が、気になるのだが暫く飛影に会えそうもない。




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