an illusion-2:deep romantic ,but be frustrated

「あっ…んっ…」
甘い声が脳髄を直撃する。
白い肌の女は足を広げて画面にいた、しかし、何故だか妙にリアルな刺激を伴っていた。
「ゆうちゃん…」
どきっとした。
画面の中から聞こえるただの疑似体験な筈なのになぜこんなに胸の奥を
刺激する。
設定だ。これは設定だ、ただのこのビデオの…。だから、俺じゃない。
声が奥から聞こえる。
でも、この台詞は自分への直接的なものだ。―――今は。
「あんっ、そこついてぇっ」
吐息が、画面から聞こえてきた。
近くに顔があって、あの黒い髪が乱れているように思えた。
それほど、画面の女は蔵馬に似ている。
違うとすれば少し童顔で、蔵馬よりも瞳が大きい所だろうか。
でも似ている。そして、白い肌も、唇の甘い色も。
いつの間に俺、あいつをこんなに観察していたんだ。
そう思っても、まるで幼い蔵馬―――にしか思えない。
「そこはだめっ―――」
拒絶しながらも求めるように腰を動かす。
白い指先が、架空の相手を求めて彷徨うのを見ると、ゴクンと幽助の喉が鳴った。
「じらさないでよぉ」
はふ、と息をついたその奥の唇が、口の中で彷徨う。
「ゆう…ちゃん…好きって言ってよ」
偶然にも…悪戯めいた偶然だが、女の想う相手はゆうちゃんと言う設定だった。
悪夢のような甘い偶然。
涙を流してこっちを見る女の睫毛が長い所も…蔵馬に似ている。
高い声も、黒髪のつややかさも…ずるいくらいに。


「やっべえ…」
やばい、いややばくない、こう言うタメに借りてきたんだから。
いやしかし、ちくりと胸の奥が痛む。悪いことをしている…訳ではないけど、渦巻く罪悪感。
でも、仕方がない。幽助の中心は熱くて、滾っていて…頭の中では、知っているあの綺麗な顔がいつの間にか
脱いで、幽助を呼んでいた。白い腕を伸ばし。
伸ばした手のひらにべっとりこびりついた液体。
「く…」
このままこの濡れた手で抱きしめたい。
唾液が絡んだこの唇で息を止めてやりたい。


*―――――*★*―――――*★**―――――*★*―――――*★*

「はぁ」
蔵馬は宿題の課題を広げながらため息をついた。
最近幽助がおかしい。
数日前にコンビニで出逢ったときも、”あ、ゆうすけ…”と声をかけると、急いでいるからと言って
去って行ってしまった。
その数日後にショッピングモールで出逢ったときにもだ。
「…幽助?」
お互いに一人だったので、何見てたの、と聞こうと思って近寄ろうとした。すると、気まずそうに見られて、
無視して去って行かれてしまった。
「どうしたんだろ」
なんかしたのかな…。
変な幽助。
俺に会うとまずいことでもあったのかな。
誰かとデートとか?…え…?
でもそれって…それって、それって自分より大事な人が居るって言う事じゃないか。
ぎゅ、と唇を噛んだ。
なにそれ。
そんなの嫌。…幽助の腕に寄りかかる人が居るなんて、じわじわと、燻る物を感じた。

もしそうなら、それは自分より綺麗なひと?
ずっと綺麗なひとなら許せる。自分よりも出来た人で支えられるようなひとなら。


そうではないなら幽助が自分を避けるなんて悲しすぎる。
嫌われるようなことでもしたのだろうか。そうでもないと思う。なら…他に理由がない。
…携帯をスクロールしてみる。何度も、でも、行き着くのは同じだった。
幽助の画面で手が止まる。

そうしているうちに、またばったりと幽助と出逢った。
雨の中、駅の前で。
傘を忘れたらしく、立ち尽くしている幽助を見て、気付かれないように駆け寄った。
ざあ…ざあ、と道を雨が打ち付けている。
「幽助」
なるべく普通の声を出すよう心がけた。
少し引きつっている気もしたが。
「えっ…」
不意打ちだっただろうとは思う。でも幽助を逃がさないと決めた。
嫌なら、嫌って言ってほしい。
会うのが嫌なら、もう仲間では居たくないのなら。
「雨降ってるよ」
わざとらしい穏やかさになっちゃったかも。
でも、とにかく幽助を逃がしたくない。…嫌なのか、何か理由があるのか知りたい。
「傘、一緒に入れば」
「え、いや…」
焦った声を出して、幽助は蔵馬を見た。やばい、重なってしまう、と思った。
あの画像と重なる。雨の中蔵馬の髪が少しだけ流れていて、益々女の子……。
「それともここで休んでく?」
休もう、と目で訴える。
う、と幽助が唾を飲んだのが分かる。でも、蔵馬には妙な力があって、なんだか動きにくかった。
「ねえ。」
ざざ、と言う音に消されそうな声がした。
蔵馬の声が少し沈んでいた。
「俺のこと、避けている?」
びくっと幽助の肩が震えた。明らかに幽助の方が鍛えていて、筋肉も、力もあるはずなのに、
呪術に掛かったような気持ちで…。蔵馬は幽助を見ないで、地面を見た。
「…幽助…最近避けているよね…なんか。嫌なの…」
中途半端な疑問系で声が消える。
「いや、そんなんじゃなくて…」
背中にも首にも変な汗が流れる。全身から汗が出ている気がする。
「そうじゃねえけど…」
ぐっと幽助の腕を掴む。
「ねえ…じゃあどうして?」
蔵馬が顔を上げた。どうしよう。なんて言えば良いんだ。
幽助は唾を5回も飲んだ。

蔵馬と地面を交互に見る。

そんなに見るなよ…。


戸愚呂と闘ったときより怖い…いや、怖いと言うより、逃げたい。
「…なんだけど」
消えそうな声に、幽助がハッとした。
「蔵馬?」
「幽助が俺を嫌いでも…俺…幽助が好きなんだけど…」
流れているのは雨なのか、蔵馬の頬を伝う物なのか…。
「くら「幽助」」
やばい、と思った。どうしよう…。
可愛い…。思った以上に可愛すぎて、ああ、と思った。
「違う…避けてたんじゃなくて…」
「じゃあなに…?」
「…俺最近お前を意識しちゃって…」
「え?」
「…お前のこと…好きなんだ…」


雨が、一層強く降り出した。

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