白い吐息はささやきのそばに

「最近、お前よく来るな」
白い息を吐いた蔵馬に、幽助が言った。
真冬の冷たい空気の中、急ぎ足の人々を背に、屋台の暖簾を上げた蔵馬だった。
夜の11時…ここ毎日顔を出す蔵馬は、最後の客だった。
幽助がねぎを刻みながら顔を前のめりにする。

きしんだ椅子の真ん中で、蔵馬が水を飲みながら顔を上げた。
「12月だし、忙しくて」
少しやせた蔵馬の顔を見て、幽助が餃子を出した。
「これ、おまけ。ちゃんと食え」
「えっ…」
かじかんだ手を伸ばし、蔵馬が器を手にした。
「熱いから気をつけろよ、お前すぐ舌火傷するだろ」
ほれ、と小さな器をすぐに渡して、幽助が言った。
「…うん」
ふう、とスープに息を吹きかけて、蔵馬が笑った。
元々白い顔が、ますます白く見えた。長い黒髪が、耳元で下に揺れた。
「髪…つくぞ」
そっと、伸ばされた幽助の指が、毛先に触れた。耳の下に揺れる髪先を、幽助の
ごつい手がかきあげる。湯気の下で、蔵馬が目線を上げた。
「…ありがと――」
僅かに火照る蔵馬の顔が、幽助を見つめた。
屋台の中でふたりきり…その暖かい空気の中、蔵馬が幽助を見つめた。
「おいしい……」
ふっと、蔵馬が満面の笑みを浮かべた。跳ねる鼓動に、幽助が汗をぬぐった。
…こんなの――あいつに怒られる
蔵馬のそばでいつも見つめている人を、ふっと浮かべる。黒い衣をはばたかせて…
手加減なしで殴り掛かってきそうな。
手を引っ込め、幽助が空になった水を注いだ。

「おいしかった!!ありがとう」
蔵馬が、屋台を立ったころには12時を回っていた。
鞄を取り立ちあがった蔵馬の、手を幽助が引いた。
「お前…疲れてんじゃねえの」
沈んだ声が、幽助から漏れた。
「少し休めないの…?」
「いま休めるほど、会社、余裕がないんだ……」
母さんに安心させてあげたいから……沈黙の中、蔵馬の言葉が聞こえた気がした。
手を離し、幽助が返した。
「いいけどよ、たまにはちゃんと休めよ、あと」
強く、声に力を込めた。
「あいつのとこいって癒されろ」

。oOo。.:*:.。oOo。.:*

あいつのところいって癒されろ。

幽助の言葉が、蔵馬の胸に落ちていた。

「で、も……」
扉を開けてすぐにベッドに沈んだ。
そのまま。シーツを手繰り寄せる。
もう目を閉じれば開くことがないくらい…眠りに誘われている。
11月から休みなく12時過ぎて帰ってきている。
飛影にも、会えていない…。

「飛影……」

あいた、い。

想い、蔵馬は瞳を閉じた。

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