ピンクノクターン2





「開けてみろ」
木の陰まで来ると、口を開いたのは飛影だった。え、と返す隙もなく、
小さな袋を受け取る。
手袋を外し…出てきたのは、サーモンピンクの、箱。
中にあるのは…小さく光る…この色…知っている。



ピンクダイヤモンドの、指輪。
真ん中のピンクダイヤモンドが、もう月になった空に、浮かぶように
光る。銀の指輪の真ん中のピンクダイヤモンド。

「人間界で、そう言うものを渡す日だと聞いた」
そっと嵌められた指輪が、深い碧の瞳に映る。
揺らめく、幽玄のような、色。夜の闇より少し薄い、濃紺の空の雲間から、
小さな光が差した。


「あの、飛影」
「ちゃんと、今日と明日、そばにいる」





・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥
去年、人間界で、都心を離れてイルミネーションを見に行った。
夜の帳が降りた瞬間鳴りだした、電話。緊急事態…。風のように、
口づけだけで去っていった飛影。

今年も、そうなるとずっと、飛影に、一緒の何日かを、いつかは。
クリスマスくらい…言えなかった。



「ありが…と…」
ぽた、と零れ落ちた雫を拭いもしなかった。我侭は、自分のほうで…。
マフラーに、涙が滲みた。
「冷えるぞ」
指輪の上から手袋をさせると、肩に手を回した。


そっと、蔵馬が肩を預けた。



「――暖めて――」
胸の奥まで。




・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥

「あっ――ん」
小さな声は闇に熔けそうだった。
小さなホテルの部屋で、飛影は蔵馬を抱きしめた。

そのまま飛影にしがみついて、蔵馬は瞳を閉じた。
ゆっくりとおろしたからだの力は直ぐになくなり、濡れたような瞳で、
蔵馬は飛影を見上げた。

「すき――」
小さな唇は媚薬のようだ。
「んぅ…」
ぐちゅ、と言う音が直ぐに蔵馬の唇を閉ざした。甘さを加えず絡みついた
舌が、性急に蔵馬を追い立てる。
まって――言いそうになる蔵馬を留める。
待てるはずがない。
あんなに素直に、碧の瞳を向けられて待てるほど大人ではない。
激しく壊してやりたいくらいだった。
「あんっ…」
絡め取られた舌が、おずおずと絡みついてきた…決して速くはない動き。
そのいじらしさは、飛影の本能に火をつける。
「あっ――!」

ばっと言う音に、蔵馬が高い声を上げた。
シャツが、落とされていた。ベッドの上で仰向けになった蔵馬は、
飛影の視線を感じて俯いた。
「俺を見ろ」
言われただけで体中に電流が走ったよう…。飛影の瞳は、蔵馬のからだを射貫くようで…。
甘い疼きに、どうしていいか
分からない。

胸の奥から、飛影を求める何かが走り出す。
「はっぁ…」
胸の突起に触れられると、蔵馬の甘い声が響いた。びくんと跳ねた
からだが綺麗だった。
熱くなった舌を滑らせると、それは緩く立ち上がった。
「ひっ…え」
抱き込むように絡まる腕。仰向けの蔵馬は、馬乗りで見下ろす飛影の肩に
手を回した。精一杯の甘え。
「お前だけを、見てるぞ」
耳元で囁く声に、もっと酔いたかった。もっと聞きたい。
「ずっと…?」
「そうだ。いつだってお前のこと思い出しているぞ」
一気に、首筋から突起までを舐めあげる。
「あっ…ん」
びくびくするのは、蔵馬の下半身も同じだ。それを感じる瞬間、飛影の
からだも熱くなった。
「やっ!…」
一気に落とされた下着に、口が開いた。だらしなく顎を伝う唾液が、妙に
艶めいていた。
体の全てを晒された蔵馬は下半身に落とされた視線に震えた。

初めてでもないくせに。
くすっと、飛影は笑ってみた、可愛いくせに控えめにねだる瞳。
でも…熱さは多分、自分と同じだ。

「あぁ!」
ぐいと足を開かれると、蔵馬は目を見開いた。いやいやと首を振る。
「ん…」
中心を舐め回されると、それは大きく反応した。緩く下から上に舐めあげる。
奥と先端をゆっくりと少しだけ強く…。
「あっうう…」
一点で大きく濡れる。甘さと欲望が駆け巡る、この流される甘さ。飛影の
舌だけしか導けない、心を捉える熱さ。
「蔵馬」
聞こえる低い声。からだの中心に頭を埋め蔵馬を見る…飛影の目が、自分を
見ているそれだけで…羞恥と悦楽が混ざり合う。見られている。誘う瞳で。
「全部、見せてみろ」
「あんっぁ…」
もう一度強く梳きあげる。奥から漏れる液体さえも、愛しい。
白い足は、誘惑の香り。舐めていた舌を一瞬離すと、
「ひっえ…?」
せがむような声が聞こえた。
応える声はなかった。

「ひえ…あっ!」
一気に口に含まれたそれは、さっきの緩い舌の動きではなかった。くちゅ、
くちゅ…口の中で蔵馬の中心を転がし、わざわざ熱のこもった目で見つめる。
「やっ…あん…」
なんども何度も開かれている足、でもどんなときでも、慣れることが
出来ない、奪って欲しいのに全てを晒すのは怖い…。怖いけど。
「ああ!」
一層強く見つめられると、蔵馬は高い声を上げた。黒髪が乱れて
広がっていた。


「はぁっぁ…」
吐き出されたものを、受け止めたのは飛影だった。
クッ…と飛影は笑った。
「素直じゃないか…俺がほしいか…」
「っ!…」
薄桃に染まった頬。そっと頬を撫でると、目をそらす。小さな獲物。
「舐めてみろ」
そっと、指が何かに触れた、飛影の胸。
「んっぅ…」
小さな口から見える、紅く染まった舌。目の前に広がる胸板…、ずっと
ずっと…包んでくれていた胸だ。こんなに広くて、ずるいくらい、
からだの全てを支配してくるひと。
「ひ…え」
舐めあげると、飛影が一瞬ビクンと跳ねた。
「くっ…」
見上げてくる深い碧の瞳が、全てを熱くする。…いつだって虜だ。
奪い去りたいほど。
「ああん!」
ぐいと、入り込んできた…契、熱さに、蔵馬の瞳が宙を彷徨った。
「ひっ…え」
ぐいと進むたび、蔵馬は飛影だけを呼んだ。かすれる声で…。
「蔵馬」
あやすような声は、確かに飛影の声だった。首に絡む蔵馬の手は震えながら、
それでも強く絡んでいた。離さない。ずっと離さない。
もっと強く抱きしめて欲しい。
「あ…ん」
疲れて一点で、ごくんと唾を飲むのが分かった。欲しい声を聞かれたくない、
でも飛影のからだを感じたい。
「っ…う」
声を出したのは飛影だった。蔵馬の指に力が入り、しがみつくと言うより
引き寄せるようだった。足を開いた蔵馬の中にずいと腰を進める。
こんなに甘くこんなに素直な存在は、知らない。
腰を引き寄せると、小さく蔵馬の唇が開く。
そっと、もう1度舌を差し入れると、今度は吸い付いてきた。
「んう…」
舌を引き寄せる蔵馬は、頬の熱が上がっていた。歯の奥まで蔵馬を感じ
ると、蔵馬の中心の締め付けが強くなった。
「くら、ま…っ」
「あ、ん…あぁ!!」

吐き出されたのは、飛影だった。
どろんとした液体は蔵馬の中心から太股を伝い、つま先までを濡らしていた。
「蔵馬…見えるか」
そっと指を指すと、ベッドの脇の、飛影の刀が目に入った。
「ずっと、お前がそばにいると思っている」
剣の柄についている、紅いタッセル。蔵馬が渡したもの。吐き出された
ものを受け止めて
潤んだ瞳の片隅に、それは映った。


「一生の中で、お前だけ、ずっと想う」

そっと、抱き寄せる手は強かった。




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