indispensable pride of4

モクジ
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…

「蔵馬殿。食事を」
そっと触れた手に、ぼんやりとした瞳が、ゆっくりと時雨を見た。

飛影の眠るベッドの傍で、ソファに眠る蔵馬を起こし、時雨が声を掛けた。

小さなパンを載せた皿を載せると、飛影のベッドに突っ伏した蔵馬が顔を上げた。

「別室でお眠り下さい」
「…ここで…ソファがあります」
寝乱れた髪をなぞり、蔵馬が弱々しく言った。
時雨と飛影を幾度か繰り返し見つめ、床を見た。昨日も見た床が、違う色に見えた。
暗い、グレーよりもどんよりとした灰色の…。

溜息を吐いて、時雨が飛影を見つめた。
「あなたが倒れては飛影が回復してもお会いできないでしょう」

「…一晩…」
蔵馬が、小さく口を開いた。
ガクガク震えていた、百足に来たときの腕は弱くも、相反する力強さを醸した。

「一晩…急いで薬を作ります」
「一晩…。ここまでお疲れのようですが」

「それでも!」
やります、と、蔵馬が時雨を見つめた。
叫びのような切なさが、大きく響いた。黒髪がばさばさと揺れる。

…闘いを挑むかのような瞳が、時雨を射貫いた。
踏み込ませない二人の世界を、飛影を
守るための。

熱い、あのトーナメントのときよりも熱い瞳が時雨を射る。

「…では、お食事はしっかりおとりください。それから、ここでお休み下さい」
モクジ
Copyright (c) 2022 All rights reserved.