indispensable pride of5

モクジ
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…

コトコトと、沸騰する音がした。

ビーカーに紫の液体を混ぜ、蔵馬はそれを何度も見つめた。
汗を拭い、瞳を凝らす。

そっと、ベッドを見つめれば、胸が痛む…分かっているのに見つめればその人が
そこに居る、甘さの矛盾。

「くら、ま」
そっと何度か聞こえてくるその声に、何度も胸に手を当てる。
ふっと、首を横に振り、ゆっくりと液体をかき混ぜる。

蔵馬、と飛影は何度も呼んでいた。

あの抱き留める優しい腕が、今こんなに、それとは違う熱い熱を持って
自分を呼んでいることの、
意味は何か。

こんな時に、互いが互いを呼び合うなんて…痛みと裏腹の、湧き上がる満ちた感覚。
…こんな時に、皮肉だと少し自嘲をした。

「…俺が、ついているからね」

どんなに離れていてもあの時、又会いたいと交わした約束が
飛影が中に確かに存在する。

胸を痛めているこんな時に、飛影には背を向けたまま思わずふっと笑いが漏れた。

百万回誰かに好きだと言われるより、たったひとつ好きだと言ってくれた人の情熱を信じている。
モクジ
Copyright (c) 2022 All rights reserved.