背徳は甘い香り
W 罪の形
静けさを熱さが交錯した瞬間、
「客人に、何をしている」
熱さをやぶった、声がした。
振り上げられた手が、人形のように止まっていた。
「コエンマ様!」
青ざめた声で、女が後ろを見上げた。
「手荒なまねは霊界の礼儀か」
女の手を掴み、コエンマはそれをゆっくり下ろした。
「今日この者をは呼び出していないはずだか」
「それは…」
女が、蔵馬を見つめた。
「まあ、いい。今、急ぎの用を思いだした。来い」
蔵馬の手を、そっとコエンマは握った。
女の脇を、蔵馬は何も言わずすり抜けた。
黒髪がすり抜ける瞬間、向けられた視線に、蔵馬は気を向けず…。
ただ一言、小さく呟いた。
「悔やむようならここまで来ない」
・‥…━…‥・‥…━…‥‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥
「すまない…」
カタンと、扉を閉めた瞬間コエンマから漏れた声はそれだった。
握っていた手が離れ、コエンマは蔵馬の顔を、見つめた。
余りにも長く、コエンマは蔵馬の顔を見つめ、そして頬に触れた。
「怪我は」
「していません」
ほっと、息を吐くコエンマに笑いかけたのは蔵馬の方だ。
ふわりとした微笑みが、コエンマに何故かゆっくり向けられた。
慈しむに似た、包むような瞳だった。
「あなただって俺を守ってくれたじゃないですか」
コエンマの耳元で、蔵馬は囁いた。
甘く、甘く。肩を寄せ、手を握りしめながら。
「後悔なんか、絶対にしないから」
重なる唇は、強く温かかった。
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