LISTEN TO MY HEART, YOUR HERAT

 

―――全く気付かないというわけではなかったんだけど。

 

蔵馬は、暗黒武術会の最終日・・・無事に勝利を収めてみんなほっとして荷造りの為に部屋に帰ったところで少しだけ、溜息をついて窓から外を見た。孤島とはいえ一応人間界、星は見える。南野秀一の家がある場所とは違って空気は綺麗だから光る星が鮮やかに見える。

吸い寄せられるように頬杖を着いて、縛っていた髪をそのまま緩やかな夜風に流す。手を伸ばせば届きそうなほどに近く見えるこの星の光……これと同じくらいに強くて鮮やかな視線を、自分は知ってる。

 

何がどうしたというわけではないんだけど。

数日ずっとあの人と一緒に過ごしてきて・・・自分で、自分の気持ちに・・気付いてしまった。そうだ・・・気付かないというわけではなかったんだけど、やっと自覚したのは、相手の気持ちではなくて自分の気持ちだった。

そう、気付いていて今更自覚したのは・・・自分自身にだ。

 

前から、幽助は特別な人だなとは思っていた、今まで自分がいた世界とは違う、もっと純粋な、大きな引力のようなもので。なにがどうとではなくてもっと・・・気付いたら引き寄せられていた。現実を色々と見てきて生きることの意味や生きることの汚さを知っている自分の性質でさえ、時々幽助の笑顔だけで違うものに変えられそうになる。それは二元独特のものなのか幽助だけのものなのか判らないけど、確かに自分を変えたのは彼だと思っていた。だけどそれは「すきだ」とまでは思っていなくて。・・・だけど、暗黒武術会が終わって幽助とはもしかしたらもう会う機会がないかもしれない、と思った瞬間に一気に、逆らえないほどの強さの切なさが胸を焼いた。

「ばあさん!勝ったぞ!」そう叫ぶ幽助の顔はやっぱり嬉しそうで、まだ怪我を残している自分に手を差し伸べてくれた心配そうな表情も優しそうで。これがずっと続きそうだって思ってたけど、・・・でも暗黒武術会は終わった。勿論それは嬉しいけど、でも、でも・・・幽助と会う理由がなくなる。そのことだけが蔵馬の頭を焼いた。

 

「ふう・・・」

今更、もう会わなくなるかもしれないというこんなぎりぎりになってから気がつくなんて。

馬鹿だ・・・もっとはやく自分で判っていたら・・・まだ・・まだどうにか出来たかもしれないのに。馬鹿だ・・・。

そうだ―――きっかけはコエンマの命令で・・・協力して親しくなっただけだったんだから向こうは蔵馬に感謝こそしているかもしれないが自分と同じ気持ちなんて抱いているなんて保証もないのに・・・。世の中では。「好きなら告白してしまえばいい」って言うけど、だけど・・・でもどうしてもぎりぎりで自分が傷付かないようにしてしまう本能も働いてしまう。妖弧の頃はそう言う愛情とか恋慕とかには無縁だったから、一番大切なのは自分だったから、そんなことで悩んだりはしなかったから・・ますます、どうすればいいかわからなくて今更後悔に襲われてしまう。・・・告白だけして玉砕なんてイヤだ・・・それなら・・・言わない方がいい・・・。

ごろん、とベッドの端に腰を下ろしながら傍にあるミルクティーを飲んだ。だけどちょっと苦くて、冷めていて中途半端な感じがして結局飲みきれなかった。

 

 

―――だから、だからそれを聴いた瞬間には、「何かこれは妄想じゃないのか?」とさえ思ってしまった・・・。

きっかけはごく単純だった。相手が思う事も同じだったからだ。・・・首括島の船が出る直前・・・ぼたんたちが雑談をしている隙を縫って蔵馬は突然に幽助に手を引っ張られて樹の後ろに連れて行かれて・・・。そこから先は頭がぼうっとしてしまって驚きとしか言いようがない展開だった。

幽助に、告白されてしまった。

「大会も終わったしお前と会えなくなるかもしれないと思うといわなきゃと思って。だから、聞いてくれ。」

瞳は真剣だった。元々嘘のない人だったけど、でも。ごまかしとかあしらうとかそういうことを許さない真剣さが滲み出ていて蔵馬は、一瞬だけ、幽助の言う言葉が頭まで染み入らなくて只その熱さにふらりと足場を奪われそうになった。

「・・・・・・お前が・・・好きなんだ・・・」

 

緩やかに囁いていた風が止んだ気がした。

体中の神経が、幽助の瞳に吸い寄せられたようで、動けなくて。 飛影や桑原の、ぼたんたちと何かを話している声も聞こえてきたけど全然聞こえてはいなかった。

ざわざわと。現実では樹が風に流されている音が聞こえているはずだったけど耳に入らなくて。

 

スキ・・・。 ただそれだけが蔵馬の頭を支配した。

「すき?俺を・・・・?」

信じられなくて・・・思ってもいなかった幽助の言葉に聞き返してしまった。幽助が頷くのが見えて二人の視線が絡んだ。数分・・・言葉をそのまま理解することが出来なくて、蔵馬は倒れそうな身体を樹に預けて、思い人を見た。相手の緊張が伝わってきて、受け止めきれずに蔵馬の手が震えた。だけどそれを悟られたくなくて思い切り身体を、自分を後ろの樹に預け切って、蔵馬も幽助を見直した。

 

それで・・そこから・・・自分がなんていったか・・・覚えてない・・・。気付いたら、

不安そうに自分を見る幽助の顔が目の前にあって、頷いていた。そのまま・・・口づけを。―――軽く、触れるだけの。

伝わる思いは確実なものだった。