LISTEN TO YOUR HEART、MY HEART2
◆―― CLOSE TO YOUR HEART―――◆
「はあ…。」
本日3回目の蔵馬の溜息。
蔵馬は窓に頬杖を付いて風に当たって春の前の穏やかな感じに浸っている。少し前の、とある日のことを思い出しているのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
無事に首括島から帰ってから3週間。段々と風も温かくなってきて蔵馬の部屋からも桜が見えるようになっていた。しかし未だつぼみ、と言う感じで花を味わえると言うほどではなかった。なので、満開になって可愛らしいピンクを見せてくれるまでにはもう少しかかりそうだ。
今日は日曜日。偶然にも、幽助はコエンマから無理やりに仕事の手伝いを命令されてしまって今日は蔵馬は特に予定もないため部屋でのんびりとしているのである。
あの、首括島での幽助の、思いがけない告白以来蔵馬は何だかぽわん・・・とした気持ちでいた。なんだかまだ、現実味を帯びていない。自分が幽助を好きだったんだ・・と気付いた瞬間に降って来た幽助からの告白。あんまりにも突然で驚いて。嬉しいとか、そういうことよりもまず何よりも未だ、頭の中に、言葉だけが残っていて。
―――幽助・・・。
夢じゃ・・・ないよねえ?
蔵馬はちょっと自分の手をつねってみた。
「いたい・・」
やっぱり身体に感じる痛みは本物で、だからきっとあのときの幽助の言葉もきっと本物だったんだろうなあと思えた。なんだか、何度も何度も思い出しては『本当だよね?』と言い聞かせてこんなことばっかり繰り返している。
だってあのまま・・・あの後船の中でさえも幽助は自分に、それらしい言葉・・・例えば返ってからどこへ行こうかとか好きだとかそういう類の言葉は何も言わなくて。だから何だか、蔵馬はつい、どこまで本当なのかわからなくて家に帰ってきてからも思い出しては不安になったりして何度も携帯を見たりしている。だけど相変わらず幽助は何も連絡をしてくれなくて。
「幽助・・・」
だから、あの告白だって幽助が本気だったのかも判らない感じで、気が付いたらもう10時を過ぎていた。宿題をしたりしてみたけど、元々こんな数式など簡単で、終わってしまったらつい思考はあの時に戻ってしまう。
―――もう・・・!
幽助は嘘なんかつくような人じゃないと思う。だったらきっと遊びで恋愛はしないだろうし。・・・なのに未だ何にも誘ってもこないなんて!俺に失礼じゃないか!・・・蔵馬はちょっと拗ね気味になってぷうっと頬を丸めてひじをついた。
馬鹿!好きならちゃんともっとどうにかしてよ・・・。自分は幽助を好きだとは思ったけど、でも幽助から告白しておいてこんな、放ったらかしにするなんて酷い!段々蔵馬は腹が立ってきた。
何度か確認したとおり携帯にメールは来ない。着信履歴だって、雪菜からの、今度みんなで食事をしましょうの誘いとか最悪はクラスメートからとか。そんな・・・悪いけどどうでもいい用事ばかりで。
「もう寝よう・・・」そう思って、充電器に携帯を挿して本当に寝ようかな、と思った。未だ全然早い時間だけど、でも起きていたっていいことなんかないしならもういいや・・・
と思って、ごろん・・・と寝っ転がる。いつもなら綺麗に乾かしてちゃんと解かして寝るのに今日は機嫌が悪くてそのままだ。
前にコエンマが「お前の髪はどんな時でも綺麗だな。」と言っていたから自分でもそこには実は自信があったけど。そう、本当は、手入れはそこまでしなくても結構傷まない方だった。少し解かすだけでも綺麗に整ってくれるのは自分でも好きなところだったけど、なんか今夜はむしゃくしゃしている所為か、ちょっと乱れたままにしてしまいたかった。
「もう・・・!」
寝返りを打って蔵馬が、もう携帯をオフにしようとして・・・手を伸ばしたその時。
TRRRRR!
「わ・・・っ・・・!」突然に大きく着信音・・・幽助だった。
―――幽助・・・!!
不機嫌に染まっていた蔵馬の瞳が一気にまあるく見開かれて輝いた。機嫌を損ねていたけど、やっぱり着信は・・・嬉しい。すぐに携帯を開いて、一回息をしてから出た。
「幽助・・・?」声も少し弾んでしまうのは、仕方がない。
「蔵馬・・?俺だけど、今電話平気か?」遠慮がちに幽助の声が聞こえた。
うん、と蔵馬が返すと、幽助は、凄い勢いでこう言ったのだ。
「あのさあ、―――花見、行こうぜ!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そのときの事を思い出して、蔵馬は頬杖を付いて、南野の家の桜の樹を見る。もう直ぐつぼみは開いて綺麗なピンクを咲かせる。
「花見かあ・・・」
自然に声も桜色のように可愛くなってしまうのを自分で求められない。だって、だってずっと本当は待っていたのだ。幽助から何の連絡もなくって、だけど彼が率直な人だって言うのは判ってたから、何か色々考えちゃったりとかして不安で。まさか飛影に相談なんかできるわけもないし第一そんな事誰かに相談するなんて恥ずかしくて、なにをどういえばいいのかもわかんないじゃない!そう思って実は蔵馬はかなり拗ねていたのと不安でぐちゃぐちゃだった。
だけど。
突然だけど。幽助はちゃんと連絡をくれた。
なんだ・・・。俺のこと・・忘れちゃったんじゃなかったんだ・・・。よかった・・・。
くすっと蔵馬は小さく笑う。頬をほんのり染めているのは自分では気付いてなかった。
もう・・・!幽助の・・・幽助の馬鹿!
一気に安心感が襲ってきて蔵馬は今度はちょっとわがままな本性を見せた。妖弧の頃も結構、黒鵺が構ってくれなかったりして不機嫌な時があったりした。結構我侭で、自分のことに構われないと拗ねてしまうのは仔狐の頃から治っていないらしい。不安と嬉しさと悔しさが入り混じってうす桃色に染まった蔵馬の頬は、きっと幽助が直に見たら一瞬止まってしまったに違いない。お酒でも飲んだときのように可愛らしかった。
「お花見・・・」
もう一回それを繰り返してみる。何でもない事みたいに言ってみるけど案外嬉しいのだ。だって。
さっきの電話の時に。照れ隠し嬉しさ隠しでつい蔵馬は言ってしまったのだ。
「お花見・・・?うん、わかった。じゃあ飛影とか桑原君とか皆にも・・・」「駄目!」自分たちだけじゃなくてって言うことをさりげなく言った蔵馬の言葉を即座に幽助は遮った。
「だああ〜〜〜〜〜め!!絶対駄目!」
蔵馬に口を挟む隙を与えずにぴしゃっと幽助は言った。
「絶対駄目! 俺たちだけで!お前と!二人で行きたいんだよ!」
「もう・・・」
「それで、・・・お前に、弁当とか持ってきて欲しいんだよ!」
―――わ・・・。
直球も直球。
凄いストレート。一瞬蔵馬は本気で真っ赤になってしまって、電話の前で言葉をなくした。
あんなふうに言われると却ってもうどうして良いか分からないじゃない。
「馬鹿ぁ・・・」
あんな真っ直ぐ言われたらどうしたらいいの・・・。
同じように直球では返せなくて。
戸惑いながらも結構幸せで。蔵馬はそのままうふふ、と笑って、もう一回穏やかな風に当たって携帯を直ぐ傍において眠った。
今日の幽助からの電話記念に、こっそり・・・・録音しちゃった・・・・。