「おおっ、凄い豪華!すげえ。これ全部お前が作ったの?」

幽助は上に桜の花を仰いで、そして直ぐに自分の目の前の弁当箱に視線を移して感激の声を漏らした。蔵馬はその声に驚いてくすっと笑った。

「うん、味は…俺の感覚だからわからないけどね。」

「いや!お前が作ったんだから絶対うまいに決まってる!すげえ!さすが蔵馬だな。」

玉子焼きとかから揚げとか、綺麗に整列されて並んでいる弁当箱を見て幽助は感心して蔵馬の顔を何度も見る。そこまで喜ばれると蔵馬も嬉しいのと戸惑っているので僅かに引きつった笑顔を見せる。

「お前って飲み会とかでも料理係だもんなあ、上手そうだとは思ってたけどこんなに凄いとは思わなかったぜ。」

母親があれな所為か、家庭のいかにもな献立に飢えてきた幽助にとって誰かが自分のために手間をかけて料理をしてくれると言うのは感動することのようだった。おにぎりやウインナーは丁寧に綺麗に形が造られて並んでいて、何と言うかいかにも「デート仕様」と言う感じで幽助には少しくすぐったいものらしく、凄い凄いを連発してこうつけ加えた。

「なんか、俺の奥さんって言う感じだな〜〜。」

「なに、それ。」

なんか意味不明の言葉を聞き取って蔵馬がちらと幽助を見る。それに幽助は、一瞬慌てて顔色を変えた。

「あ、いや、悪い意味じゃなくてさぁ、なんか俺のために誰かがこんな風にしてくれるのって良いなあと思って。」

それを聞いて蔵馬はくすっと笑った。

「うん…ありがとう…。」

率直な幽助の言葉に頬を赤く染めて蔵馬は付け加える。

「…今の…奥さんみたいって言うの…怒ってないよ。」

「そ、そう?」

「うん。」

「気にしないでほら、お茶もね、もって来たよ。この場所、桜が綺麗に見えて、良いでしょ?」

「あ、ああ・・・」

言われて幽助も、蔵馬が指差した方を見る。ふと見上げたら、薄い桃色の花びらがふわっと広がって自分を迎えた。

「確かに綺麗だな。」

頷きながらもちょっと落ち着かない。こう言うのはどっちかと言うと蛍子や雪菜の分野だと思っているので素直に頷くのも照れくさい。だけど目の前で見つめてくる蔵馬の視線を受けるとうそもつけない。時計を見ると夕方少し過ぎ、これからきっと酒盛りを始めるのかもしれない人々が少しずつ集まってきたのが少し遠く見えた。

「ここは、でもあそこの大きい樹から離れてるから穴場なんだ。だからゆっくり出来るよ。」

「へえ、そうなんか。」

いつもはどっちかと言うと騒いで花など見ない幽助だがこうも見事な薄紅色の花を見てア心が揺れた。それに隣には蔵馬がチョコチョコ歩いてシートを引き始めている。可愛いしぐさを見ていては、何だか幽助の気持ちも少し蔵馬に同化してきた。

 

「やっぱりうまい!お前凄いな!」

おにぎりを一気に2個も食べながら唐揚を食べつつ大きな声を出す。

「おふくろさんが入院してた頃もずっと一人で全部やってたのか?」

「え?」

凄い勢いで食べ続ける幽助は、手を動かしながらももごもごさせながら蔵馬に問いかける。

「全部?」

「おうよ〜!…ほら、料理とか毎日してたのか?」

「あ・・・うん、まあ…してたことはしてたけど…。」

そこで蔵馬は言葉を濁した。すると幽助はやっぱりなあ、と言う。

「やっぱり?」

「ああ、お前ってなんか手先が器用そうだしなんでも簡単に出来ちゃいそうだし、なんかこうさらっとこなしちゃいそうだよな〜・・・」

ペットボトルからお茶を紙コップに注いで飲んでいた蔵馬はふと僅かに眉をひそめた。

「器用?そう見えるかなあ・・・」

そう言われてみれば、と思ってちょっと表情を曇らせる。

「ああ……なんかお前に出来ないことってないような…。」

「そうかな。」

蔵馬は少し困ったような表情をして見せた。それを取り敢えず雰囲気を和らげるためのものだと思った幽助は大きく頷いて話題を変えた。

「そう言えばこの前コエンマが来たぞ。息抜きとか言って人の部屋で昼寝をしやがってあいつっ…。」

「コエンマ様?」

昼寝と言う言葉に蔵馬はくすっと笑った。

「コエンマ様が昼寝しに幽助の部屋までくるなんて―――ふふっ。想像できないね。」

「お前そりゃアイメージだけだぜっ〜〜あいつ暇を見つけては俺の部屋に来るんだから〜!」

「え?そうなの?」

「なんか武術会の間霊界を抜け出してきたから仕事溜まって凄かったらしいぜ。すぐぼたんにおいつかれてさあ…。」

うん、うん、と蔵馬がさっきの曇りを消して笑顔を作って話を聞く。二人の間に少し穏やかな空気が流れ始た。

 

 

 

辺りを包み込んでいた、ふわりとした空気も少しずつ冷えたもの平気を変わり始めて、周りの風景も、若い子供達がジュースやお弁当を片手に、バドミントンなんかをしていたものから、ぷうんと僅かに漂ってくるお酒の匂いが広がり親父どもが、それでも少しは遠慮がちに宴会を始める時間になった。

「お〜〜い、蔵馬ぁ!」

その穴場の近くは、それでもさほどは込み合うことも泣く、ふたりは何かに邪魔をされるでもなくのんびりと雑談をして過せる場所だった。と、幽助が大きな声を出して、奥の小さな露天のところから走ってくる声が聞こえた。片手には、自分用のビールと蔵馬用の、暖かいミルクティだった。(寒がりなので、春と言えど夕刻かから夜になる気温は苦手らしい)→初めは「随分と敏感すぎるんじゃねえの?」と笑っていた幽助だったが結局、蔵馬が困った顔をして、「でも寒く思うんだもん」という様子には、つい「じゃあ俺がジャケットを貸してやろう」とか「何か買ってやろう」とか思ってしまうのだった。

と、急いで走って戻ってきた幽助は、あれ、と足を止めた。

 

目の前で、蔵馬は、桜の樹にもたれかかってこくんこくんと眠りかかっていた。

「蔵馬ちゃぁん?」

幽助はまじまじとそれを見て名前を呼んでみた。しかし蔵馬は目を覚ます気配はない。向こう側はうるさくなってきて、宴会の賑わいも派手になってきてはいるがしかし、ここまでは侵食は襲ってこない。すうすうと蔵馬は半分夢の世界でゆっくり首を動かしている。くすっと笑って幽助は、缶を木の下に置く。

…かわいい…

珍しいこともあるもんだなと思ったが、一端は起こそうとした手を引っ込めて、ずうっと蔵馬の体を倒す。そして隣に座り込んだ。…蔵馬の意識がないことを受けて、ちゃっかり膝枕、である。