MOMENT
〜 聞こえますか 届きますか あなたへのMERODY〜





…ふと教室のチャイムが鳴ったのに気付いて、蔵馬は教科書を綺麗にしまい始めた。
とある学校のクラスの、いつもある光景。
終業にチャイムが鳴って生徒達はいつものようにざわめいて友達のところに走って行って
寄り道の計画を立てる。
「蔵馬、どうする?」
蔵馬のところにも、仲良しのぼたんが近づいてきて聞いてきた。
「うん…」
「小テストも終わったし、ハンバーガーでも食べていかない?」
「そうだね、いいね。」
駅の近くに新しく出来たファーストフードのお店。そこが最近話題になっているのだ。

蔵馬は頷いて、セーラー服のリボンを結びなおす。そして、ぼたんは自分の席に戻って行った。
「……」
それをちらっとみた蔵馬は、そうっと視線を他に移した。
少し離れた席に居る飛影だ。
飛影は一個先輩で、なんでも部活の連絡とかで、同じクラスの幽助に話をしに来ているらしい。
結構無口で無愛想。しかも制服も結構おおざっぱに着ているので、
優等生が多いこの学校では浮いている。中には怖がる生徒も居る。…その割には成績はかなり良く、
いつも5番以内には入っている。
淡々と話をしている飛影を見て、蔵馬はぼうっとしていた。

…飛影先輩は、寄り道とかしないのかな。
余り帰りに遊んでいるのを見たことが無い。
……と言ってすぐに帰って勉強、でも無いようだ。
少しなぞに包まれた飛影だが、一個だけ分かっていることがある。
飛影は結構大きな家の息子で、凄く金持ちらしいと言うことだ。
それを聞いて一部の女子には憧れを抱く者も居る。

蔵馬は頬杖を着いてみた。

  なんか、なんでかな…ずっと。
 
  気になるんだよね−−−
 

 
     だけど気になる この気持ちは何故?
       途切れた夢 二人の続きが知りたい−−−    

担任にぼたんが呼ばれてしまって、待ってるから良いよと言った蔵馬は、ほわ〜っとしながら
立ち上がってトイレに行こうとした。
すると−−−
「あ?」
あれっ−−−?
ぱたん、と、目の前の景色が反転した。


「−−−薬はこれだ。ちゃんと飲ませて置くように」
「分かった。」
近くで誰かの声が聞こえて、蔵馬はふっと意識を取り戻した。
−−−あれ?
どうしたんだろう−−−
思って、蔵馬は思い出した。
手を洗いにトイレに行こうとして、なんか眩暈を感じて−−−
−−−それで、倒れちゃったんだ。
「やだ…」
みっともないな…
赤くなって思って時計を見ると、20分くらいしか経ってない。
よく聞いてみると、この声は…
…飛影先輩。
飛影の声だ。間違いない。
うわっ…どうしよう。
布団の中…保健室の布団の中で蔵馬は思わず、スカートを握ってしまった。
恥ずかしい。
そこでもう一度、ぼうっとなって、蔵馬は「すいません」と声を掛けようとしたが出来ずにふわ、と
ベッドに落ちてしまった。
「…ったく」
面倒くさそうに言った声が聞こえて、蔵馬は目を開けようとした。…だが、 何故か疲れている感覚がして上手く出来ない。
思考回路だけは焦って動いていくのに、最近委員会で遅かった所為か、身体は疲労を訴えている。

仕方がなく、ドキドキしながら、蔵馬は飛影の様子を伺っていた。
飛影が薬を見ているような気配が感じられる。

ごそごそと言う音が消えて、蔵馬は神経を研ぎ澄ましてみた。
暫くしても、飛影は何も言ったりはしないようだった。…無言で、でも出て行く気配もない。
…?
飛影先輩、怒ってるのかな?
でも、なんで何も言わないんだろう。
思った。でも何となく、じいっとしているのは感じる。視線を感じる。
生徒の気配も少しずつ去っていくような感じで、保健室の周りからざわめきが消えているのを感じる。
…だるさが少し収まって、目を開けようとしたとき…
「……!!」
ふと感じたものに、蔵馬は硬直した。

ふわ、と。 …ふわりと。
確かに。
今… …え?
柔らかいもの…確かに…触れた。
…えっ−−−!!?
飛影っ!先輩??
う、うわっ−−−−−−
「−−−!」
体温が突然上がったような感じで、蔵馬は今度は弾かれたように目を開けた。
だが、誰も居ない。
「え…」
いない? 飛影?−−−先輩?

さっき触れたもの、自分の唇に。 先輩の唇?
−−−動転した蔵馬は、眩暈をこらえて壁伝いに歩いて、扉を開けてみた。
−−−ガラっ…
だが、もう誰も居ない。
「……」
…唇をなぞってみる。
夢?
−−−ゆめ?
何故?−−−意味が分からない。
 消えない感触。
−−−先輩?


蔵馬のスカートが揺れた。
リボンが、少しだけ乱れた。

−−−キス?…先輩、から?
…嘘じゃない…キス…


   唇なぞるたびにほほが燃えるの…
   明日どんな表情で会えばいいの?

   
   夢じゃない 夢じゃないの ああ…
   心こと 抱きしめていて…
   




ママレードボーイOP 笑顔に会いたい と國府田マリ子 MOMENTからです。
この2曲は大好きで今も聞きます。本当に可愛い曲で女の子らしくて。一回書いてみたくて。
勢いで書いてしまったために、飛影SIDEの描写が無いんですけど…
という部分です。