花の吐息

  7 闇と光  




そのとき、パタン、と音がした。
出て行こうとした飛影とちょうど同じタイミングで侍女が来たのだ。
「蔵馬様、大丈夫でございますか?さっき裏からお戻りのところを
お見かけしまして…」
可愛い声で入ってきた娘は、蔵馬の腕の傷に気がつき、あわてた
様子で駆け寄った。
「消毒剤を持ってまいりますわ。黄泉様には内緒で。」
「あ、ありがとう…雪菜。」
蔵馬はごめんね、と言った。
「お嬢様もこの屋敷では窮屈でしょう。たまにはお外に出たく
なりますわ。」
どうやら、少女は蔵馬の理解者らしい。
「たまには構いませんわ。…でも、ここはあのお屋敷とは違うん
ですから、気をつけてくださいね」
雪菜、と呼ばれた少女はそう言って声を潜めた。



「……」
そんな二人の傍で、ただ一人、まったく違う空気を纏っている者がいた。
飛影だ。


−−−ゆきな?
確かに今自分の耳に飛び込んできた言葉は、そうだった。
−−−雪菜。−−−ゆきな。
少女が部屋を出て行くと、飛影は小さく問いかけた。

「今の女、雪菜と言うのか。」
「雪菜?ああ、今の子?」
そうですよ、と蔵馬はうなづいた。
「一番の仲良しの子なんです。優しくて良い子です。」
と言って、どうしたんですか?と蔵馬は聞いたが飛影はそのまま
部屋に戻ってしまった。


自分の部屋の戸を閉めて、飛影はため息をついた。
いた−−−あった。
自分が探していたもの。
雪菜、と言う少女。



「…蔵馬、いるか?」
小さなノックの音がして、蔵馬はびくっと震えて反応した。
「は、はい。」
「これから、私の部屋へ来い。」
黄泉の声だ。
蔵馬は肩を震わせて、小さな包帯を握り締めて返事をした。
「は、はい。」



「蔵馬、お前、今日どこへ行っていた?」
黄泉の部屋に、白の薄布で訪れた蔵馬は予想外の問いに固まった。
空気が揺れた。

「…あ、あの…」
「どこへ行ってたと言っている!?答えろ!」
黄泉は言って、蔵馬のからだを扉まで追い詰めた。


「…私にうそをつくとどうなるか、知らないわけではあるまい?」
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