花の吐息

  1 ため息と街  


----ここは、花の綺麗なことで有名な、南の国。

海に面した美しい街並みで、人々は皆穏やかなものばかりで、
笑いに満ちていて、暖かい気候と穏やかな空気にあふれて
いたこの国は、裕福と言うわけではなかったが、他の国から
比べてもそう引けを取らない文化と産業で、中流に介していた。


首都である街は、美しい街並みがいたるところに見られて、
街の中には他人を気遣う優しい空気が満ち溢れていた。


季節の巡るたびに様を変える花々は色を変えて、わたり来る人々を
穏やかに迎え入れていた。『彩りを変えて、風を変えず佇む国』と、
世界から称されたのも納得、と言うほどに暖かな国だった。




そんな国の、海に近い小さな街。

今日も、子供たちのにぎやかな歌声が響いて、果物売りの商人が
大きな声を張り上げている。

その中を、大きな怒鳴り声はかけていく。
−−この街一番の暴れん坊(といっても子供と言う
様な年齢では決してないのだが)幽助の声だった。


「うっせえな!ちょっと出かけてくるだけだって言ってる
だろうが!」

それを負う甲高い声もまた負けずに響いた。可愛い割にはきつい女、
と幽助が漏らしている、幼馴染の蛍子だった。


「待ちなさいよ!ちょっとは温子さんの手伝いしたらどうなの!
幽助!」

しかし幽助の逃げ足だけは早く、子供たちの喧騒に巻き込まれて
蛍子は追いつけなかった。


ーー幽助の母温子はこの近くで,喫茶店をかねた花屋をやって
いるのだが、生活はほどほどに、という感じだった。


なので貧しいということはなくそこそこだった、しかし息子の
幽助がぜんぜん店を手伝わないので時々幼馴染の、かなり
模範的な娘の蛍子に愚痴っているのだった。

蛍子の家はこの街で小さな喫茶店をしている。父親がマスターと
して経営しているのだが、時々は蛍子も店にたって料理をしたり
ウェイトレスをしたりしているのだった。



しかしこの日も幽助は、店の手伝いなどかったるくて面白くもない
ことやっていられるかと、逃げてきたのだった。


「うっせえなあ・・・まったく、あいつがお袋みたいだぜっーーー」

さすがにもう追っては来ないのを確認すると、ると幽助は隠し
持っていたタバコに火をつけてふかし始めた。

13のころに一度覚えて以来これがかなりのストレス発散となっている。

幽助はまだ
15だが既にタバコを知っている時点で、近くに住む幻海は、
(温子が忙しいため教育係りのような存在だったのだが)毎日溜息を
ついて小言を言っていた。






「−−−あ・・あれ・・?ここ・・・」


夢中で走ってきて思い切り遠くまで来てしまった幽助は、見知らぬ
風景に、はっとしてぽかんとした声を出した。

−−−喧騒が広がっている賑やかさの耐えない幽助の街とは少し違う、
やけに静かな街だった。



大きな門の並んでいる坂がずっと続いている。

木々がざわめいていて、人々の声が少しもしなかった。
「おい・・?ここどこだ?」

誰にともなく幽助はつぶやいた。

いつものように蛍子から逃れて来て、夢中で走ってきて、確か町の
外れの河を横切ってーーということまでは思い出せた。


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