花の吐息

  2 花  



そして幽助は一端周りを見渡した、どこかで見覚えのある建物があったら
そこから街へ戻る道がわかる筈だったからだ。

ぐるりと見渡して、知っている建物はないことを把握して、仕方ないので
適当に、自分がわたってきたと思う方向へ戻ろうと思ってもう一回
猛スピードで戻るために気合を入れるべく息を吸った。


−−−その瞬間。
「あれ。・・・なんだ?」

白くて大きな、上品な建物ばかりの道の端に、異様に怪しげな
建物があるのが目に入って幽助は目を凝らした。


それは、坂の上に建っているのだが、
ほかの建物とは違う雰囲気をかもし出していた。
−−高級住宅街なことはわかるのだが、その周りの上品で白い建物とは
別に、その何倍もの敷地がありやけに高い塀で囲まれていた。

しかも、物凄い量の蔦が絡んでいる。


「なんだこりゃあ・・・・・?」
幽助はなんだか不気味なものを感じて、さっさと帰ろうと、
もと来た道を急いで帰った。





ーー数日後、,うららかな春の日差しの差し込む午後ーーーと
言っても幽助のすることはただだらだらと店で、店番を
しながら(たまにはするのだ)タバコをふかしているだけなのだが。



・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥



その日は、客も余り多くなく、のんびりとーーいや、だらんだらんと
昼の一時を過ごしていた幽助だったが、ランと言う音で入ってきた
人に目を輝かせた。




「こんにちわ」
可愛い声とともに、長い髪をポニーテールで揺らせて入ってきたのは、
この街の外れの屋敷に住む、統治監視委員の娘だった。

厳密に言うとこの街の住人ではなく、「この街の安全を管理する」ために
一時派遣されてきた、公務員のようなものだ。

蔵馬はそれの一人娘だった。

なので幽助とは少し違って結構家の作りも派手で、お嬢様なわけだが、
どういうことなのか、時々服装を変えては街中に遊びに来たりする。

父親と出かける場面に遭遇する時もあるのだが(それは大抵、幽助が
蛍子に追い立てられて逃げ回って蔵馬の家のほうの庭に入り込んで
しまったときとか、不法侵入まがいのタイミングのときばかり
なのだが)やはり「実は身分が違うんだな」と言うのを感じる
瞬間でもある。


父親はかなり厳しい男で、蔵馬が街中に出ること事態を良く
思っていない。

普段であれば、街に買い物に行くだけでも誰かをつけて出させるほど
だったので、たまに出張などで解放されたときに蔵馬はこの店に
おしゃべりに来るのだった。


「蔵馬、今日も可愛いねえ、親父さんは今日は出張か。よかったなあ」
久々に登場した幽助のアイドルに、弾んだ声を出す。


蔵馬は仲良しであるのだが、父親が、かなり溺愛していてしつけの
厳しい男なので、交流する相手にも色々と口を出してくるようだった。





片手間には貿易業もやっていると言う話で、蔵馬の前ではいえないが、
かなり怪しいこともやっているといい噂だった。



父親が貿易の仕事で出張の時だけは蔵馬も遠慮なく家を抜け出してくるのだった。


「うん、今週は暫く居ないから、少しだけ勉強時間を早く終わらせて
もらったんだ」
ほらこれ、リクエストされたクッキー、と蔵馬は小さな包みを取り出した。
「うそマジで覚えててくれたんだ!さんきゅう、お前の作る菓子が
一番好きだぜ」
ワントーン大きな声を出して幽助はあからさまに喜んだ。


「思ったよりも早く、抜け出せる時間が取れたから」

そう言って蔵馬は舌を出した。

ここでのんびりする時間だけが、気を緩められる時間なのだろう。


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