花の吐息

  3 風の音  



幽助は、そういえばと思い出して蔵馬に言った。
「そうそう、おまえさあ新しく最近この辺に引っ越してきたやつって、
誰か知っている?」
蔵馬はきょとんとして幽助を見た。
「ううん?新しく?この街でって言うこと?」
「いや、そうじゃなくて、街の外れにさあ、白い家が並んでるじゃない
か?その辺に新しく、変な家が出来ててさあ見覚えのない家があった
から。なんかなあ、蔦が絡まってて塀があって、やけに大きいんだよ。」
上手く説明できないんだけどー、と蔵馬の入れたコーヒーを飲んで幽助は言う。
「へえ。誰か新しく引っ越して着てないかお父様に聞いておくね。」

そういって蔵馬は、光るかわいらしいデザインの腕時計を見て
はっとなった。
「あ、ごめん、もうすぐ家庭教師の先生が戻ってくるから、帰るね。

幽助、もうすぐ紫草が咲くね、幽助が言ってた丘に、一回見に行きたいな」
「ああーーそうだな。また暇があったら来いよ」


カラランーーと軽い音を立てて蔵馬が出て行った。




大体余り蔵馬はここにゆっくりすることが出来ない。
目を盗んで出てくるので直ぐに帰らないとあとが怖いのだ

。前に、ぼうっとしてて家庭教師が訪れる時間を過ぎて帰ったら、次に
会ったときに、頬に赤い跡が出来ていた。

どうやらしつけが厳しいだけじゃなくてかなり煩い父親のようだった。


蔵馬の父親はこの地域や隣接地域を大体把握しているはずだから、
蔵馬に聞けば直ぐにわかるかと思ったのだがそうでもないようだ。


今度会うときまでに聞いておくとは言いつつも、次に蔵馬といつ
会えるかはかなり怪しい話だ。

一週間後にひょっこり現れる時もあるが、2,3ヶ月家を出られない時もある。

蔵馬の行動は父親が規制しているので自由には動けないのだ。




一方蔵馬は、町に出る時用に変えた街娘の服をなびかせながら、自分の
屋敷の門が開いていることを確認するとこっそり裏門から部屋まで、戻る。

いつもはせわしなくしている召使たちも父親がいないときは少しのんびり
出来るので一階の、玄関の方にも気配は少ないのだった。


蔵馬の部屋はこの屋敷の3階にある。贅沢な装飾が施された、一個一個の
部屋をちらりと見ながら、静かに静かに足音を忍ばせて歩いていく。
そうして、奥の、一番豪華な部屋にたどり着いて、ふっと息を漏らす。

誰かに見付かったらまた叩かれたりしてしまうところだった。

ふう−−−と溜息をついていつもの、薄ピンクの服に着替える。

家の中では、いつもはしっかりとした素材の、あまり身動きの出来ない、
いかにもお嬢様と言う服を着ている。高い身分のものは街娘と同じような
服装はするなという父親からの厳しい言葉だった。



蔵馬の部屋は、さすがに一番広い。部屋の隅には大きなベッドが合って、
ふわりとした布団が毎晩蔵馬を迎え入れる。
そばの時計を見るともう夕刻で、風が寒く感じた。蔵馬はまとめていた
髪をふわっとおろすと、ストールを取ろうと引き出しを開ける。


−−−と、その時。 


ガタンという音が、窓から聞こえて、びくっと蔵馬は振り返った。

自分の部屋に誰か・・・今、侵入者!


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