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切望は甘さにも似た迸り V


  彷徨うのはどちらの花びらか  



・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥



「あっ…」
良いよと言ったのは蔵馬だった。ただ…手が伸びていた。

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…
銀の切っ先が、床に落ちた。
「協力…してやる」
・‥…━…‥・‥…━…‥・‥

あの後、腹の傷が痛みを訴えることも無くなった頃…、もうすでに
小さな痣にしかなっていないころ、その人は現れた。

良いのかと、言ったのは飛影だった。
だから蔵馬は頷いた。
その強ばった頬に飛影は気付かなかったけれど。





白い肌をまさぐられながら…蔵馬の脳裏にあの人間が…幽助が浮かんだ。
予感が、したのだ。
あの人間とはこの先関わることになる気がした、半妖の自分と、この妖怪と。
人間と関われば魔界にも知られるかもしれない。自分が妖狐であることは
人間界に潜む妖怪には知られている。
…ここから…命がけの運命が始まるかもしれない。
危うさは飛影の運命も同じだ。
飛影は蔵馬の肌をゆっくりと舐めた。暖かい舌が…強く、速く蔵馬の胸を舐めあげる。
ビクンとひくつった蔵馬の腰を撫でて、胸の突起を、噛むように舐めた。
「あっ…ひっ…え」
跳ねるように蔵馬の腰が浮いた。そのまま指を蔵馬の腰から双丘まで辿り着かせる…。

腰を浮かせた蔵馬の、双丘を後ろから撫でた。
「んっ…」
腰から首までが熱く火照り始めた蔵馬を、冷たい眼で飛影は見下ろした。
はっと、蔵馬は唇を開けて飛影を見上げた。
丸い瞳が飛影を射貫く…。全身に衝撃が走り、飛影の下半身が激しく疼いた。
どくんと、飛影のものがハネそうになった。蔵馬の下半身の疼きが飛影に伝わったのだ。
飛影のものが急かす…。今すぐに走り出したいと…。

蔵馬の双丘を撫でた反動で、蔵馬の奥から甘い蜜が漏れた。…シーツを、とろりと
濡らしていく。
「ふ…ぁ…」
んっと、蔵馬は吐息にならない、声でもない何かを漏らした。
その声だけで…飛影は喉奥までが火照る気がした。急ぎたなる…。



次に会うまで…俺を忘れないでと言ったのは蔵馬だった。
どういうことか分かっているのかと確かめたのは飛影だった。


仰向けで飛影の腕に、蔵馬は縋るように手を伸ばす…。
蔵馬は妙に滲んだ瞳をしていた。ゆっくり、蔵馬は腰を落とした。浮いても居ないのに、
蔵馬の腰だけが、ひくひく捩っていた。



「んっ…はっ…」
腰より上を何度も舐めあげると、ツンと胸の突起が二つ、立ち上がっていく。
飛影を求めるようにそれはびくついていた。色づいて突起が飛影を求め、
先端が赤く染まっていた。胸の突起の赤が、飛影に映る。
「や…ぁ…っ…」
見られたくないのか、胸を隠すように蔵馬は両手を交差させた。


蔵馬の下半身でさえふるふるとしているのに、拒むように苦しむように
蔵馬は口を閉じた…。
唾液が喉元を伝う。

「まさか…」
はっとして、飛影は言葉を続けた。飛影に反応するくせに羞恥に満ちている
この感じ。
「初めて…なのか」
うっとりとしていた蔵馬の瞳が、大きく見開かれた。蔵馬の身体中が固まり、
蔵馬は飛影から目を逸らした。
応えられない…か。
それでもいい、答えは十分だ。
ふと、飛影の指が柔らかく、丸みを帯びた、まだ未完の少年の頬に触れた。
ごくんと、唾を飲む音がした。初めての狐を、自分だけが知ることができる。
誰にも知られないまま。
…そうじゃないか、奥から、声がした。お前は、この狐を、疑いながら信じている。
信じたがっている。


その時、あの人間の顔が浮かんだ…幽助とか言ったか。あいつを庇ってこいつは。

蔵馬の命を助けるために、鏡の前に飛び出した幽助。
飛影は、それを思いだし歯ぎしりしそうだった…。このままではこいつは…あの
人間に流されるだろう。自分のために命を賭けた幽助に。
飛影を守るためにと蔵馬は言った。
それだけか。人間への恩が、情があるのではないか。
人間を刺してはいけないと飛び出した蔵馬の言葉は真実かもしれないけれど…。

飛影の未来を守ると言った蔵馬。…ここから先の未来、蔵馬は他人に流されて
しまうかもしれない。

ずく、と飛影の腕が蔵馬の膝に触れた。膝頭を強く撫でると、蔵馬はんっと
顔を背けた。
「ひ…え…」
開こうとすると、目を閉じて膝を閉じようとする。無理なのに。
誰にも、渡したくない。

初めて、飛影は思った。これから蔵馬が誰かに浚われ奪われるなんて、
許せることじゃない。
人間に巻き込まれる未来…蔵馬に守られる自分ではない。
飛影は蔵馬の戦い方を知っている。初めて会った時の蔵馬を覚えている。

そう思った瞬間、飛影は口の端を上げた。
蔵馬の中心はどくどくと脈打ち、その腰は控えめに震えている、急がせたいのかと、
尋問したくなる。興奮させたいのか、自分を罠に嵌めているのか。
…騙されているのか、自分は。そう思ってしまうほど、蔵馬は飛影を深くへ導いていく。
「やっ…あっ!」
ガッと、膝を割ろうとすれば蔵馬は唾液を顎から零して顔を横に振った。
蔵馬の膝を、勢いで割った。…ほんの少しの力が、蔵馬をねじ伏せた。


これが人間の身体との違いかと、飛影は思った。

華奢で弱い人間の身体の半妖。半分の妖狐の部分を呼び覚ましてやりたいと思った。
本能を…。
蔵馬の奥底にある心の全てで、自分を受け止めさせてやる。

「ひくついてるじゃないか」
蔵馬の中心を見つめて、意地の悪い言葉が飛んだ。
「やっ…」

知られたくない、欲。
良いと言ったのは自分だけど。
「いいぜ。よくしてやる」
蔵馬の中心を、飛影は欲に満ちた眼で見つめた。獲物だ。今はこいつは自分の獲物。
膝を、ぬると舐めあげると蔵馬は付け根を震わせた。


「…ぁ…」
手では押さえきれない声が出た。

飛影の熱い舌が、蔵馬のものを強く梳いた。
「んん!」
首筋に滴る唾液。それだけで…飛影が膨らんでいく。飛影の下半身が、
どくんと鼓動した。
「いつまで耐えられるかな」
蔵馬の中心を…口で覆った。びゅるんと震えていくそれを、飛影はねっとりと
くわえ込んだ。
「……ひ…え…」
苦しい。全身を駆け巡る熱が、蔵馬の尻を、緩く浮かせた。更に蔵馬のものに
舌先を這わせ、蔵馬の力を緩ませる…。蔵馬の尻が、またシーツに沈んだ。

ぐいと、今度は少しの抵抗も許さず蔵馬の膝を開いた…。押さえ込む。
シーツに蔵馬の腰をしっかり押さえると、飛影は足の間から蔵馬を見つめた。
「…うう…」
小さく割られた間から真っ直ぐ射貫く飛影の瞳が…脳裏から消えなさそうで。
見られてる…身体を。


そう思えば蔵馬の中心は更に疼いた。…飛影の舌が、下から先端を梳きあげながら
吐息を吹きかけていく。
「ああっ!」
蔵馬のものがずしゅっと膨らんだ瞬間、飛影は両手でそれを梳きあげて
大きく舌で、沿い舐めた。
根元から押さえ込むように。
ぶるんと…蔵馬のものが弾けた。


「はっ…はっ…」
荒い息は誘惑だ。良いと言ったのは蔵馬だ。もう、今更戻れない。



「よくしてやると。言っただろ」
口を押さえていた手を放って、四肢を投げ出す蔵馬の身体にのし掛かって、
その首筋に、飛影はまた舌を這わせた…。ずきっと言う痛み。
首筋に赤い痕…。
「協力してやる…証拠だ」
嘘は吐かない。
赤い痕にすら気付かず足の付け根から甘い疼きが駆け上がる。


「良いと言ったんだからな」
あっと、蔵馬は叫びのような声を上げた。

柔らかくなったそこに…飛影は二つの指を差し入れた。


蔵馬の奥を、飛影の指が這いずるように触れる。蔵馬の肉襞をねちねちと
触れて…一点、ひくついたところに辿り着くと、指先でそこを突いた。

途端、濁流のような甘い波が蔵馬を包み込んだ。
蔵馬は激しい吐息を漏らした。
「んっ!!ふ…!あっ…あ!」
そこから広がって行く、荒ぶる高波。
もっともっと。
蔵馬は肉襞を、飛影の指に擦るように当て込んだ。

ごつく強く、かき混ぜるような刺激が愛しい。触って…。
もっと何度も突いてほしい。

力が抜けた蔵馬の身体などたやすい。

そして、仰向けでうっとり微笑む蔵馬の前に…飛影のものを晒した。


仰向けの蔵馬にのし掛かって、飛影は口を重ねた。
激しく…小さく開けた唇を割って下の歯を練り上げる。歯と舌の間に、飛影の
蔵馬の中心を舐めたその舌を、奥底までねじ込むのだ。
「…っ……あ」
苦しい…苦しいけど…なぜか…腕が自然に飛影を求める。

のし掛かる飛影の背に、蔵馬は腕を伸ばした。…これからの…ことを…
期待するのか耐えるのか…自分でもなんとも言えない感覚だった。


その瞬間、ぐいと蔵馬の中で、飛影の二本の指が囁いた。…ぐいぐいと左右に
蔵馬の奥を強く…そしてやがて、一本の指が、奥の、奥の一点を突いた。
もう一本で、その一点を擦ってみる。
…指の腹で、押しては潰す。
ツンツンと言うより…ぎゅっと蔵馬の奥の襞を、いじる指と、突く刺激の指。

ぐっと、何かが離れる音がした。…飛影の指が、奥の一点から離れたのだ。
「…ふっ…あっ…」
飛影の二本の指先が、蜜に濡れているのが、朧気に見えた。
余韻に浸る…隙はなかった。
「…はっ……あ!」
先ほどよりももっと奥に、飛影の二本の指が、差し込まれた。
蔵馬が息をする隙もないくらいの一瞬。一気に…。
奥に、引き締まった、ざらついた指が、生き物のように蠢いていく。
蔵馬の蜜で濡れた指で、蔵馬の奥を再びこねていく。
蔵馬の全身が、びくびくと戦慄いた。



「はっ…ん…ああっ…」
一気に頬の紅潮を誘導していくその興奮を、蔵馬はもっととねだるように足を
自ら開いた。

ビクンと戦慄くのは、今度は蔵馬の膝の全てだった。
どくんと、蔵馬の喉元が仰け反った…。

指が、増やされたのだ。
蠢く二本の指の間に、入り込む太い指…。
太い指が蔵馬の最奥を突く…甘く締め付けてくる、一点をを後の二本が
柔らかく刺激する。
蔵馬の中心の周りを、潤いがにじみ出る――。

「――あなたを――」
何か、小さな声が聞こえた。蔵馬が、何を言ったのか。
消えそうな声で。
その声に蔵馬を見ると、蔵馬は酔いしれているような吐息しか吐いていなかった。

ずる、と音が響いた。――飛影は指を抜いた。
「あ、んっ!」
名残惜しく、そこは飛影の指をくわえ込みそうに蠢いた。
飛影の指を濡らした、甘くねっとりした液体。


蔵馬の足先から膝に付け根までをスッと――その手でなで上げる。
蔵馬の奥からの液体が、蔵馬の膝を濡らしていった。
「俺から、離れるなよ」
お前が、言ったんだ。
ぐふっと、――三本指をもう一度ねじ込んだ。
「はっ――…」
待てない、飛影が――もっと刺激が欲しい。その頃を待っている。
待っているのに飛影が向けてくる視線は蔵馬を翻弄しているようで。
身体中から、熱が飛び出しそうだ。もっとと、蔵馬は膝を広げた。
恥ずかしい部分を見つめる飛影が舌なめずりをした唾液が、蔵馬のものに
落ちた。それでさえも夢のような刺激になる…。

見上げた飛影のものが、はちきれんばかりだった。蔵馬の中心も…心も…。
飛影、飛影と何度も蔵馬は呼んだ。


「っ!やっ…」

一気に、それは来た。蔵馬の腰を上げると、飛影はをそのからだを
二つ折りにした。
双丘を持ち上げられて、蔵馬は身体を震わせた。身をよじっても、逃げられない。
「俺は……!」
蔵馬は飛影を守れない。きっと、自覚はないだろう。

飛影は蔵馬の腕を、きっと離さない。
これだけが、今の予感だった。

ぐっと、嵐のような波が蔵馬を襲った。ずこっと、飛影の身体が蔵馬の奥へ
突き刺さるように進んでいく。
繰り返し、飛影はその身体を押し込んでいった。
渡したくないと、もう一度飛影は思った。人間を殺せばあなたの命はない。
言った蔵馬には確かに守られた。
けれどこれから巻き込まれる未来に、かき消せない危うさが、蔵馬にはあった。
はあはあと荒い息の蔵馬が、大きな涙で頬を濡らして飛影を見た。
「んんっ…あっ」
膨張したそれが、最奥を突き、蔵馬のそれを見れば
ふるふると情熱に、弾けそうだった。
湧き上がる熱のまま、飛影は熱を押し込み…そして一気にそれを抜いた。

「…ひ…え…い!」
目の前に弾ける白い液体…。どろりと蔵馬の奥から飛ぶ、飛沫。
「もっと…飲み込めよ」
抜いたそれは、まだドクドクと脈を打つ。
蔵馬の唇から跳ねた唾液が、飛影の欲をかき乱す。蔵馬の身体を見つめるだけでも、
強い興奮を呼び起こす。
あてがわれた飛影のものが、まだそこにあるように、一瞬思えた。
しかし痛みが抜けた感覚が――蔵馬は切なげに飛影を見た。

「あっ……ぅ…」
ぐっと。
加減もなく、飛影は勢いのまま、もう一度蔵馬に突き出した。
根元まで滾り続ける飛影の熱が、深い碧の瞳に映る。
「ふあ――っ――」
一瞬、その光景が過ぎった。幽助の前に飛び出したとき咄嗟に飛影の剣が
蔵馬の急所を外したのだ。
なぜ。
訊きたくて訊けなかったことが、胸に疼いた。揺さぶられながら、それでも
飛影に抱きつきたいほど甘い気持ちだった。
飛影の身体を、甘く蔵馬の全身で締め付けていく…。
一番奥に、奥に息を殺すほど飛影は強くねじ込んだ。
蔵馬の中で飛影は別の生き物のように、熱く熱を打ち付けていた。
蔵馬の身体中から、全ての力が抜けていく。
飛影の熱だけが、今蔵馬を支配していた。

蔵馬は波に揺られ悲鳴のような声を響かせた。

ガクンと、蔵馬の膝が力なくシーツに落ちた。

蔵馬っ…と、小さな声がした。
膨らみが弾けて、飛影の身体が…今度こそ離れた。

はっ、はっ、と、蔵馬は瞳を彷徨わせた。

荒い息が、同時に響いていく…。弾けた飛影のものの…その液体が蔵馬の
足に垂れていく。

そっと、触れるものに、蔵馬は潤んだ瞳を開けた。
…飛影の、唇だった。
「…泣くな」
その睫毛に触れる唇が、何故か暖かかった。



蔵馬の、黒髪を飛影はひとすくい掴んでみた。

「俺は…」
お前の未来を…半分導いてやる。
ふと、蔵馬の細い指に触れた。…この、細い指が…未来を導く。

そうかもしれない。と、飛影は少し笑った。


「蔵馬…俺はお前の未来」

薄く痕になった、蔵馬の腹の傷を、そっとなぞった飛影は、小さく笑った。
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