Re: Longing

蔵馬と直接逢えたのは――あの恐ろしい武術会が終わったその日から数日後だった。


「終わりました」
コエンマの執務室に、蔵馬はいた。そのほかは何も言わず――何を思っているのか、控えめにコエンマを見た。
あんな武術会が、本当にあの島であったとは思えないほど、霊界の庭は、暖かな桃色の花々が咲き誇り
ゆったりとした風が吹いている。自分がいつもこんな場所に生きている奇跡を、蔵馬を見てコエンマは思った。

「ご存じの通り幽助は勝ちました」
少し、蔵馬は笑っていた。どう言う意味なのか、ほっとしたように髪をいじり、コエンマの机に近づいた。
「あの――」
蔵馬とは思えないほど、小さな声がした。

立ち上がり、コエンマは蔵馬と向き合った。
こうやって見ると、本当にまだ未熟な少年だ。

この小さく細い身体を、あの闘いに差し出したのは自分だ。その事が、どんな結果になったか、今更胸を突く。

あの時幽助を守るために――協力をするにしても命まで賭けないという選択肢もあったはずで。
そんなコエンマの苦悶するような表情を見てか、蔵馬の空気が緩んだ。

「ありがとう――ございます」
「なに――っ」
本当に、今度は本気でコエンマが驚いた。茶色の細長い瞳が、蔵馬を捕らえる。
「壁に、なってくれたこと」
倒れそうだった蔵馬の、足下が安定し、身体中を、支えなくてはいけなかった手の力が抜けたことを覚えている。
無理をしなくても、呼吸が出来るくらいの暖かい霊気。
コエンマの記憶にも、あの場面は鮮やかに残っていた。血しぶきが舞い、倒れ込む蔵馬の姿も、その前の妖狐に戻った瞬間も。
ああ、あれは自分の知っている蔵馬だと、高揚したことは、口には出せない。幽助のことは特別だけど、蔵馬のことは
もっと特別なのだ。幽助と蔵馬は違う。蔵馬の一つ一つの動きもずっと、見ていた。見逃すはずない。
「あのくらいのこと…」
ゴクンと、コエンマは唾を飲んだ。
コエンマは一歩、踏み出していた。今触れなければ、もう触れられない気がする。蔵馬はまた遠くへ行って、そして現れない。
これは単なる妄想ではなく予感だ。ここで蔵馬をもっと見つめなくては居なくなるし…。蔵馬のその瞳も睫毛も全てを見たくて、
コエンマは蔵馬に触れた。そっと…手を伸ばし前髪に触れ…それだけの、つもりだった。

「あっ!」
ガタンと、音がした。

背を壁に打ち付けて、蔵馬は驚きの声を上げた。頭一つ大きな、コエンマが蔵馬を壁に貼り付けるように追い詰めていた。
抱きしめるように手を伸ばす…。
「消えるなっ……」

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…

触れたいと言ったのはコエンマだった。

俯いて、僅かに良いよと言ったのは蔵馬だった。

・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥



まさか、本当にもう一度逢えるとは思わなかったのだ。
開いたシャツから覗ける白い肌に触れて…コエンマは、これは現実かと、ふと思った。
鼓動が早まる…何を焦っているのか。自分でも分からないくらい、このまま離して
しまったらもう消えてしまうのではないかと思った。
あの頃、向こうも自分のことを同じように…気まぐれな存在だと思っていたのかも
しれないけど。


けれど今蔵馬はこの手の中にある。
ビクンと身体をしならせる蔵馬の肌に、コエンマは唇を近づけた。
冷たいかと思った肌は確かにそこに生きている温もりを秘めていて、生暖かい舌を、ゆっくりと練り込むように
這わせ…蔵馬の唇に重ねた。

そっと、シャツを全て取り払う…。


窓の外から差し込む夕刻の陽の光が、いたずらに蔵馬の黒髪と肌を照らす。

んっと、声がした。
「こえ…」
重なる唇が、震えていた。
「知らないお前ではないだろう」
口の端を歪めてコエンマは問いかける。
…知らないはずはない、あの頃何度も抱き合ったのだ。蔵馬がどのくらい覚えているかは
分からないけれど…。
でも、思い出させてみせる…新しく、出会えたのだ。


言いながら首筋に、舌を這わせると、あっ…と喉もとが仰け反った。
荒々しく…今度は勢いで唇を…噛みつくように重ねた。
「ん!!…んあ!」
蔵馬が動けないよう…重なる顎だけに力を込める…小さな人間など逃がさないように。
蔵馬よりも少し大きなコエンマの顔が、離すまいとその白い頬に熱く覆い被さっていく…。
「んっ…あっ…」
ひきつっていた蔵馬の腕を押さえ込む…。
頼りなげに蔵馬の上半身に絡んでいたシャツを思い切り引き裂いていく…。
ぶるっと、その肩が吹きつけた風の冷たさに上下する。
もうすでに晒されているところはないことに対しか、蔵馬は顔を背けた。


仰向けに、蔵馬はそっとコエンマを見上げた。
この丸く深い瞳に捕らえられたのだとコエンマは思う…なのに、追いかけても
捕らえられずここまできた。
組み敷いた身体を見て、あふれ出すのは欲望かもしれない、自分のからだの隆起が
大きく震えているのがわかる…。欲しい。このまま捕らえて。
自分の色だけに染め上げたい…。
まだこの身体は自分だけのもので…。


がっと、今度こそ蔵馬の顎に噛みついた。
「ん!!!」
ガリッと音を立てて蔵馬の舌を噛むと、小さく赤が流れ出す…。
薄赤い舌と、その血の濃さが美しかった。さっき、コエンマの舌でヌメヌメと染められた
蔵馬の喉元が濡れていた。舌を絡めて逃がさない…。



「はっ…あ!んうっ…」
近くで迫ると、まつげの長さが分かる…あの頃と違う。


「あっ…!!やっ…ひっ…ん!」
首を横に振り、それでも甘さを含んだ声がした。コエンマの舌が、胸の敏感な摘まみを
舐めあげた。二つ尖り始めるそれを下から上に…繰り返す舌がもどかしいほど優しく…
交互に…根元に時折歯をを近づけながら…。
「んぁっ!」
歯が近づく瞬間、蔵馬の恐れのような声がした。このまま噛んでしまいたい、一瞬思う。
痛みで捕らえてしまいたい。

けれど蔵馬の胸の摘まみは、もっとというように、ねだるように先端を震わせて
いくのだ。
「…コエ…っ!」
先端を舐め、片方の指先で摘まむと、蔵馬の唾液が飛んだ。しなる胸の摘まみが、
誘惑の香り…。んううと、蔵馬は小さな吐息を漏らした。
腰を左右にくねらせ、蔵馬は何かを言いたそうにつま先をシーツに擦りつけた。

綺麗な…何もしていないのに、かさつきもしていない、人形のような蔵馬のつま先。


このつま先の全てまで、支配したいと思うのは我が侭だろうか。
権利はあるのに…権利だけがそこにある。


高ぶる熱の中…胸に上がってくるのが何なのか。
思うほど、コエンマの汗が垂れた。
仰向けの蔵馬の胸に、コエンマの汗が垂れ…それはまるで真珠のように。
「…はっ…」
のしかかるコエンマの唾液が、胸の尖りに垂れ落ち…蔵馬はそれさえも吐息に
変えていた。
「……!あっ」
突然に一気に吹き込んだ空気に、蔵馬は高い声を上げた。
滑りを帯びた舌が…脇を舐める音がした、ピチャピチャと。んっと、蔵馬は深い息を
吐いた…。むずむずとした、膝の震えが止まらない…。
唾液で光る胸の摘まみを…コエンマは強く弾いた。

「こっちを、見ろ」
「んっ…あ…コエ…ンマ…」
何を見ているのか、焦点の合わない蔵馬の瞳を、今抉りたかった。自分だけのものに。
コエンマは、ずるっと、自分の唇にその指先を差し込んだ。
唾液と、蔵馬の口の血で染まっていく…。
「ん!!」
入ってきた何かに、咽せた声が上がった…。


長い指先が、蔵馬の口に入り込み…コエンマが舐めた指が、差し込まれたのだ。
「お前の口の中のものだ」
ぐりぐりと、かき回すようにねじると、蔵馬は弱々しくコエンマを見た。
ぐねぐねと、小さな穴をかき回すように…関節を曲げ、少し熱くなっている
舌の奥まで…。
一気にそれを抜くと、ベットリとした、二人の混ざり合った液体がコエンマの
指先で光っていた。


「…ふっ…」
ほんの少し残る血を舐め…幼さの残る身体を、まじまじと見つめ直した。
「幼いな…」
まだ幼い…あの頃とは違う…いや…あの頃を追いかけても仕方がない。今はもう違うのだ。
こんなに柔らかく未熟な身体を、今支配ではない何かで手にしている。
そのことに、こんな高揚する思いはない。
ずくずくと。下半身が疼く。咲き誇る花びらの蜜を、奪い去りたい。
コエンマの隆起が、ビクンビクンと…しなりながら蔵馬の身体でそそり立っていく。

こんなに堪らない存在はない。
胸の摘まみを立ち上がらせて、黒髪を乱して自分を迎えている存在。


「……やっ…」
もがくように、蔵馬は腰を揺らした。けれど自分より僅かでも大きな身体のコエンマが
動じるはずはなく…。
蔵馬の膝を少し開け…その中心の毛を、まさぐっているのだ。

「っ…あんっ…」
まだ大人になりきっていない、蔵馬の中心を守るように生えたそれを、コエンマは強く
捻るように触れた。両指で毛を撫で回し、そしてずっと、襞の入り口へ…。

「…んうっ」
僅かに自分から膝を広げ始めた蔵馬の、これは誘惑か。溺れても良いのか。
支配しているはずなのに溺れていく。
あの頃を追いかけてはいけない…だってこんなに…毛さえ伸びきっていない…。
柔らかく、…そして慣れない蔵馬の身体はコエンマの指を、おずおずと
飲み込んでいるのだ。腰をすり寄せてきたあの頃とは違う、柔らかさ…。

「…はっ……」
僅かに抜かれた指に、蔵馬は喉も度に唾液を垂らして、吐息を漏らした。
「っ…あん!」
けれど力を抜けたのはその一瞬で…抜かれた両手を見た次の瞬間…ぎゅっと、
肉襞を突く何か…。
抜いた指を舐めて、コエンマは肩指を3本…ねじ込んだ。ああっ甘い喘ぎを
響かせた瞬間、蔵馬の肉襞がコエンマの指先を飲み込んだ…。じくじくと、
それはコエンマの関節を飲み込み…。

織り込まれたような、コエンマの指先の突きに、蔵馬の…シーツから、腰が上がる…。


仰向けでシーツから少し腰を上げ、蔵馬はコエンマの指を飲み込んでいく…。
「んっ…あっ…」
中を這いずる感覚は、蔵馬の奥の一点から甘い疼きを湧き上がらせる…。
大きく首を横に振り、黒髪を噛むしかなかった。
肉襞を押し上げ…そして引いていく指先…、中を弾けば、蔵馬の膝かコエンマの手を
締め付ける。
「あっ…あぁっ…」
肉襞の奥を突き…指の腹を押しつける…コエンマ。
増やされた指の力で…指先が奥へと入り込む、肉襞の付け根を、ぐっと押し握るように
触れると、新たな蜜が飛び出していく…。ちゅるちゅると、奥から粘りの蜜がしみ出して行く…。


けれど、熱を帯びたコエンマの瞳に、蔵馬は逃げることも出来なかった。
見つめられれば力が抜ける…、そして蔵馬の隆起も、ビクンと跳ねていく…。
強く弱く肉襞を突かれ…蔵馬はうっとりと腰の力を落とした。


「あっ…やっ…ん!」
引き抜かれた指が…じっとりと濡れていた。とろとろとコエンマの指を光らせる液体…。
濡れた毛の間から、蜜が垂れていく…。


「コエ…」
ジクジクうずくこの足先から駆け上がる衝動は何だろうか…知っているのに、
逆らえない…コエンマを見上げるしか出来ない。…自分ではどうしようもない…。


股の間からびりびりと唸るような声がする…細長いこの瞳の、この身体を溶けるような
熱さで包んでいるのコエンマ。
コエンマの汗が、蔵馬の肌を染めていく…。

「熱くなってる…ぞっ…」
それは自分も同じだと、コエンマは思った。隆起している蔵馬のそれを掴むと、蔵馬の
腰はびくんと跳ね…一層大きく足を開いた。
コエンマの隆起も、蔵馬のその膨らみかけている迸る様に…大きくなっていく…。
鼓動も跳ねているけれど、一番はこの身体が証明している。
蔵馬の身体も熱かった。


「っ…!!?」
ん!!っと変わった視界に、蔵馬のくぐもった声が漏れた。
重なっていたからだが反転していた…。
目の前にあるのが…柔らかな…シーツだった。何と思った瞬間、後ろに熱さを感じる。


「感じやすいだろう…こっちの方が」
片手が、蔵馬の胸の摘まみを再び弄り回していた…。

蔵馬の隆起をもう片方でつまみ上げる…ふるふると、それは首をもたげていく…。


そして、どくんどくんと言う音まで聞こえそうなコエンマの隆起が、熱と共に
重なっていた。

「ん…はっ…!」
ああっと、蔵馬は腰をくねらせながら、唾液と吐息を吐いた。

その唾液すら、あの頃の気持ちを呼び覚ます…けれどこの、執着にも似た気持ちは
多分きっと…過去も今も全てを飲み込むには、コエンマには、今は苦しいだけだ。
ただ…又逢えたという…ときめきにも似た奇跡を今味わいたい。

蔵馬が見えない方が……欲に…滾ったまま進んでいける気が…した。だから。

「あっ…あ!」
コエンマの指先は、濡れたその蜜で蔵馬の隆起をねっとりと包み込み、蛇のように
這っていく…。


「なんっ…でっ…」
なんでこんな…。小さな声が、聞こえた。


一瞬、蔵馬が一層小さく感じた。
はあはあと息をして…蔵馬は小さく言った。
「罪人…とし…てっ…」
コエンマは支配の態度で自分に接したことはなかったけれど…。
でも、知りたかった。
知りたいのは…本当はそんなことじゃなくて…。あの頃とは違う…今は
短い命の中で身体を遊びには使えない、そしてあの時の。

髪を噛みしめ、蔵馬は何故ともう一度問うた。一瞬、その黒髪にあの銀髪が重なる…。

心の全てを鷲掴みしそうなのは同じなのに、あの頃は嘘もつけたけどこの小さな
人の形には何も言えなくなった…。
「支配…する…つも…」
一瞬、黒髪が銀色に…見えた。

「そんなはずはない!」」
声が、重なった。
ずいと身体が進み…うっと蔵馬は呻いた。弄り回すよりも、力を込めたコエンマの指が、
大人の力で…蔵馬の隆起を撫でた。
「あっ……」
「探して…いたのはこっちだ!」

激しく、コエンマは声を響かせた、泣きたいのはこっちだ。と言いたくて…。
けれどそんなことはコエンマには出来るはずがなかった。
涙は、一人の時だけに流すものだ。けれど蔵馬を泣かせたい。
その瞬間、コエンマの腰が上がり、その隆起が開かれた蔵馬の膝の間に進みを得た…。




うぐっと、蔵馬は声にならないものを吐き出した。唾液が、勢いで、
水が飛ぶように散った。蔵馬の隆起も、激しく梳かれたのだ。

「…うっ…」


吐き出したものに、蔵馬は脱力した。

パサッと蔵馬はシーツに沈み込んだ。乱れた黒髪が、白い背中に張り付いていた。
小さな人間の身体を、濡らし自分の色に染めているのは他にいないのだと、コエンマの
隆起が消えず滾っていた。

「…蔵馬!」
けれど見えない蔵馬の全てをもう一度包みたい。そっと、手を伸ばす…。

ゆっくりと仰向けで、蔵馬はコエンマを見た。見上げるその肢体や瞳全てが
…このまま霊界に…と…一瞬思う…振り払うと、熱が身体を支配する。

「あっ…!!」



二つ折りのようになった蔵馬は、いやっと、叫びを上げた。見えてしまう…自分の
身体も…まだ大人になりもしない…毛も、コエンマの身体も…。

「うっ…あ!」
コエンマの隆起が…蔵馬の奥へ…入り込んでいく…。
何故だろう…言えば言うほど、隆起が膨らんでいく…。これは、言えないあの頃の
気持ちだろうか。膨らむ隆起が、コエンマが息を吐く度に蔵馬の襞の付け根で、
くねっていく。

「ひっ…」
コエンマの隆起が、その敏感な一点に触れる…。

「あの姿を、追っていたけれど、違う!」
吐き出すコエンマの言葉が、身を進める隆起の滾りに重なっていく…。


一瞬コエンマは蔵馬が憎々しく見えて。あの頃とは違うけれど暗黒鏡事件で
蔵馬を見つけたときのことを言葉で伝えるのはこんなに辛いことだろうか。
コエンマの胸が高鳴った。
抉るように…蔵馬の奥に隆起を突くと、悲鳴が上がった。
「…うっ…」
消えそうな声をしながら、蔵馬は小さく声を漏らした。
「…いけ…どりに…」

痛いのか甘いのか…分からない何に揺さぶられながら…それでも訊いた。
「それは!!!お前に…!!」



魔界で霊界に追われたとき、深手を負って…森に逃げ込み…全身に流れる
血の臭いに…もうこれまでかと思った。
終わりかもしれない…。
その時、光る、穴のような空間の裂け目が見えた。

後ろから、聞こえたのだ。
「コエンマ様から、生け捕りにしろと」
空間は妖狐の尾を飲み込み、消えた。




「あっんっ…!!」
ぐいっとコエンマの隆起が膨らみを収め…中でどくどくと突いては引くと繰り返す…。
奥を突かれ、蔵馬の隆起も僅かにもう一度、震え立っていく。
生き物のように蠢くコエンマの隆起が、蔵馬の全身を今包んでいた。


「お前を…求めて…!」
妖狐を求めていると言えば嘘ではないけれど、このまだ幼く…たかが人間に
救われてしまうような不完全な姿が…同じではないから違うというのではないのだ…。
「記憶が…!」
蔵馬の中に、あの頃の記憶がある、それが全てだと…言い聞かせるように…伝えられなかった。


「捕らえたかった!」
それだけが、今言える精一杯だった。
「もう1度…会いたかった…」


知りたいのは…本当は…コエンマの…心の奥底…。


蔵馬の尻が高く持ち上がり、刺さるのではないかというほどの欲が、差し込まれた。
「あっ…!!あっ…」

んっうと、震える指を蔵馬はコエンマの背に回した。
ずんと腰が蔵馬の身体に突き刺さり、びゅるっと、前の隆起からも再びの愛蜜が
放たれていく…。

蔵馬の腰を抱えて、コエンマはそのまま身を進めた。

花びらが重なるように、抱き込む身体。

放たれたコエンマの隆起が、蔵馬の腰に擦り付けるように触れていた…。
ぬるぬるとした蔵馬のものが、コエンマのその腰にくすぐったく触れた。


「ん…っ…」
縋るように、コエンマは蔵馬の唇を奪った。
波が収まりきらない身体が、蔵馬の全身の力を奪い、シーツに、ゆっくりと
指が落ちた。


「待って…いた…」
荒い息の隙間で、僅かに聞こえた声は、ぼんやり霞んでいく視界のそばで漏らされた。

蔵馬とコエンマは生きる世界が違う…それを、二人とも知っていた。

あの出会いが恋なのか言葉には出来ないけれど…焦がれていた。
蔵馬がどう思おうと…支配する権利は自分にはある。けれど、力でねじ伏せたくは
なかった。
でも会いたかった。

過ちと正しさは同じ意味だ。




「お前、だからだ!」
もう一度、コエンマは蔵馬の唇を、奪った。
「壁よりも…連れ去りたかった!」 壁くらいならつくれると…言ったけれど。
あの時のことを…悔いているのか、コエンマは泣きそうに言った。
あんな闘いから本当は連れ去りたかった。
けれどそんなことは出来なかった。


もどかしさは、言葉に出来ない熱情だ。


「うあ!っ!」
差し込まれた、隆起の熱さに、蔵馬の指が、コエンマの背にきつく縋っていく…。

ずりゅっと、コエンマが身体を起こすのが、見えた。
力の入らない腕が、シーツに落ちた…。
「奇跡だ…蔵馬」
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