even if rain2

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そんなわけない…。 そんなわけない。


仲良く寄り添うカップルを横目で見ることに、慣れているから
大丈夫だし…恋人のイベントの時に会えなくても。

街ではカップルがバレンタインで一緒に歩いているけど…。
そんなの、羨ましくなんかない。
1月になる前とか、一年を終わる瞬間とか、メールしあったって会社の
女の子が言っていたけど そんなの気になんかしていない。
そんなの…。

「ほら、俺からバレンタイン。」
ぎゅっと、蔵馬の手に何かが掴ませる。ビニール袋の音がして、
不意に下を見る。

「…?」
見上げる瞳の、蔵馬の、無意識が、今少し痛かった。

「お前、疲れた顔してた。こないだ店来たとき。…これ持って
帰りなさい。」
そう言うと、もう片方の手に、もうひとつ握らせて走り出した。

「あ…!ちょっと…!」
蔵馬は一瞬遅れて声を出したが、間に合わなかった。
激しくなる雨の中、幽助は走り出していた。 幽助の傘と…ビニールの中には
いくつかのおにぎり。


「ん…」
結局、幽助のおにぎりを一気に食べたら安心して眠りに落ちてしまった。
気づいたら、14日土曜日だった。

ありがとう、と言えなかった。 ちゃんと顔を見て今度…幽助に…
「ありがとう」 言わないと…。

「ありがとう、幽助「あんなやつのために、そんな表情するな」」 不意に
降ってきた声に、弾かれたように起き上がる。

――えっ…―― 幻…… 「えっ…」思うと同時に声が出て、
そばにある筋肉質な手に触れてみる。 少し蔵馬より温度が高い
その手を感じる。
ほんもの…。

「飛影…「ほら、起きろ、行くぞ」 蔵馬の声を遮って、その一瞬
あと…… 「わっ!」突然に抱えられて、ついていけずに蔵馬は
高い声を出した。 驚きより、何もついていけていない。

朝になる前の淡い色の空を駆けて、飛影は屋根を跳んだ。
「黙っていろ。」

飛影の声は聞こえたが、変わってく景色は早すぎて、それどころでは
なかった。
「ついたぞ。」
トス、と降り立って、飛影は蔵馬をゆっくろ降ろした。


「ここどこっ…」 言った瞬間、目を見開いた。
…この乾いた空気、あの世界より早い風――魔界。

「魔界…どうして――」 埃を落として立ち上がると、飛び込んできた
ものに、声をなくした。
一面に咲き誇る、桜に似た花たち…。

桜よりも紫に近い、けれど色の濃さは樹によって違う…コントラストが、
高い丘の上に描かれていた。
絵画の一枚のような景色に、蔵馬の瞳が丸くなる。
蔵馬を囲むように咲いている花を見て今度は、飛影目が細まった。


「バレンタインだって聞いた。」 「…え」ぶつかった視線が、
いつもよりもずっと熱いものを宿していて、蔵馬は一瞬、心臓が
飛び跳ねたかと思った。 次の瞬間、唇が重ねられた。


「気持ちを、伝える日なんだろう」


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