誘惑をはねつけて 番外編 

甘い契 U


飛影、と蔵馬は呼んだ。
熱い身体が、飛影だけを求めている。

そっと、蔵馬は手を伸ばした。その細い指が、縋るように伸ばされ…
もう、躊躇いの意味は、今はもうない。

「くら、ま」
自分の、声が震えているのが分かる。
はっ、と蔵馬は甘く吐息を絡ませた。伸ばされた手を取り、飛影は身を進めた。

「あっ…!あ!」
大きな涙の粒が、煌めいた。
身を進めた飛影の、それが高ぶっていく、蔵馬の身体に、声に。
全てに煽られるように。


ぐり、と蔵馬の中に囁く飛影のそれが、初めてのうねりを導いていく。
「あんっ……」
痛みの中にも、それでも甘さはある。
焦がれていたのはきっと自分だけじゃない。その真実が、蔵馬を動かしていく。
腰をすがりつけるように重ねて、蔵馬は涙を流しながら笑った。

「……飛影…」
揺さぶられる波の、その痛みだって今なら拒まない。

はじめに、この人を守りたいと思ったのは自分だ。
そうだ。

あの瞬間からきっと、待っていた。


「んっ…うっ…」

蔵馬を引き寄せて、飛影は唇を重ねた。

荒く、手を重ねる。蔵馬の涙を、ゆっくり舐めあげていく…舌先の優しさが、
蔵馬の心に満ちていく…。

「…お前が…」

奇跡…。




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